(最終話)未亡人との歪な関係H-2
「佳織さんとエッチすると不思議な気持ちになるの」
「そう」
特に驚くこともなく、佳織は冴子の背中に手を回してぽんぽん、と撫でる。
「すごい、信頼してるんだと思う。全部預けちゃう」
「あらあら。どうしたの」
「佳織さんのこと、好きすぎるみたい。独り占めしたい。門井くんから取っちゃいたい。二人の時言ったこと、冗談じゃないですよ」
「取る、なんてそんなことしなくても……あたし、冴子さんのこと好きなのに」
佳織は眉毛を八の字にさせて、困った顔をしていた。
メイクを落としたその顔には年齢相応のシワや、フェイスラインのたるみがありつつ、むしろそれが女性性を象徴しているようだった。
困ったその顔はとてもセクシーで、そんな顔をさせているのが自分だということにたまらなく冴子は興奮してしまう。
「冴子さんみたいな綺麗な人に、こんな近くで言われたら、困っちゃうよ……」
佳織は冴子の背中に手を這わせつつも、目を逸らしてそう言った。
「またおうちに来てもいい?」
「ねえ、嫌なんて言わないのわかって言ってるでしょう。あたしだって冴子さんに体、預けてるよ。とっくに」
冴子は嬉しくなって、抱きしめながら佳織の頬に唇を押し当てた。
「大好き、佳織さん。どこにも行かないで」
「おばさんなんだから、どっかに行っちゃうわけないでしょ。ずーっとここで年取って、おばあさんになるよ。もし悠斗くんに他に好きな人が出来たり、子供が欲しくなったりして、結婚して彼がどこかに行っちゃっても、あたしはここにいるしか出来ないんだから」
「佳織さん、強いなあ。門井くんのこと、そんな風に考えてるなんて」
「好きなだけじゃ一緒にいられないんじゃない?だって、息子と同い年なんだもん。あと十年経っても今の冴子さんの歳より若い男の子が、少なくとも性的な感情では、あたしと一緒にいたいなんて思うわけないでしょう。でもね」
佳織は、冴子の肩から背中へ、腰の辺りまで優しく撫でていく。
「ただエッチしたいだけじゃなくって、それも含めたもっと大きなところで、みんなのことが大事だから。ここにずっといるから、あんなこともあったねって、みんなでご飯食べて、もうそんなことできないけど、って笑えたらそれでいいなあって。今はまだ悠斗くんのことが好きだし、そう思えないけど。
そうなれたらって思う。理想論かな。ずるいのかもしれないけどーーあたしは、みんな大好きだから」
冴子は納得した。
彼女は普段からこんな風に思っているからこそ、誰かとひとつになることの精神的な心地良さを、恋人でもない冴子に与えることができるのだ、と。
「ずるく、ないです。多分、佳織さんにとっては、恋人とか、友達とかそういう枠組みが既に小さいんじゃないかな」
「欲張りなだけよ」
佳織はクスクスと笑って答える。
「だって、悠斗くんは恋人として好きだし、いちばん特別だけど、冴子さんも好きなんだもん。会社の後輩も」