第三章 忍者の敵は忍者-1
(フン、ヌルヌルのままじゃ気持ち悪いですって……アンタのほうが気持ち悪いわよ全く)
豪華な姫へのプレゼントの箱を抱える忍者は、心の中で悪態をつく。
要塞内部の金属製の通路を行く、忍者衆の行列の1番後ろをついて歩く忍者である。
(それにしても)
(……やっぱりただの誘拐じゃあなかったってことね)
彼らの会話を聴いていた忍者、正しくは砂漠で倒した忍者装束をまとって忍び込んでいた(くのいち不二子)は、自分のカンが正しかったことを確信した。
あの気味の悪い老人によるヤスミン姫誘拐の真の目的は、このココダット王国の地下水脈の権利を交換条件にすることだったのだ。
(なんとかしてあのお姫様をルパンたちよりも先に助け出して、目一杯恩を着せて……いっそあたしがその水脈の権利をちょうだいするか、最悪でもカレーライスなんかじゃない本当の謝礼金をいただくのも面白いかもね)
「何をぼんやりしてる?お前もさっさと中へ入るんだ」
盗らぬ皮算用の妄想を邪魔された不二子が我に返ると、忍者一行は通路の行き止まり、重厚な浮き彫りを施された木製ドアの前にたどり着いていた。
「早くしろ……姫がお待ちかねだ」
箱を抱えた不二子とともに扉の中へ足を踏み入れたのは、3人の忍者たちである。
「では、われわれはタコの死骸を片付けにゆく」
不二子たちが室内に踏み込んだ背後で、重い両開きのドアが閉ざされた。
(ここは……?)
大理石張りの豪華な室内。
巨大な円形の浴槽が、ゆたかな湯に満たされている。
その中央に片膝立ちに鎮座する、肌もあらわな女神像の抱えた水瓶から、細い滝のように、お湯が注がれていた。
浴槽の手前の床。
先に運び込まれていたのだろう。
タコになぶり物にされたときのままの汚れた姿のヤスミン姫が、ベッドの脚にタイヤのついた病院用のストレッチャーのような台に横たえられ、静かに眠っているのだった。
粘液がこびりつき、シルクのドレスも無残に裂けてはいたが、その美貌はまったく損なわれてはいなかった。
「さて、今から綺麗にして差し上げますからね?」
忍者のひとりがそう姫にささやいて、おもむろに傍らに置いてあった固形石鹸を手にとって、泡を立て始めた。
他のふたりも同様に石鹸を手の中でこねくり回し、モコモコと白い泡を立ててゆく。
そうして人の頭ほどの大きさの泡が出来上がるのを見はからい、忍者たちは姫のかたわらにひざまずき、泡まみれの両手を伸ばしていった。
ヤスミンの両足の裏に伸びた手は、泡を塗りつけるようにしながらゆっくりとくるぶし、ヒザ、そして内股へと這い登っては、また足元へと戻る動きを繰り返す。
ヤスミンの口元をふさいでいた布切れを解いて外した手は、首筋を下り、華奢な鎖骨を指先でなぞりつつ、裂けたドレスに隠れた胸の片方に忍び込んでゆく。
もう片方の乳房には、残ったひとりがドレスをめくって泡を塗りたくり、遠慮のない動きでもみ洗いを始めていた。
誰の目にも明らかに、綺麗に洗う行為とはかけ離れた倒錯した愛撫であった。
(なんなのこいつら、最低だワ……どこまでスケベなのかしらね)
箱を持ったまま離れて見ているだけの不二子は忍者頭巾の覆面に隠れた顔に、軽蔑しきった表情を浮かべるのだった。
「う……うう」
姫の眉間にシワが寄って、くちびるからうめきが漏れる。
目が覚めるかもしれないのも構わず、乳房を揉む指先が、泡に隠れた乳首を探り当てると、
「ぁ……ぁあっ」
せつなげな小さなため息が聞こえてくる。
脚の上を行き来していた手が、タコと姫の粘液が両方染み込んだ下着をかき分けて、内部へと侵入していくと、
「んぁ……いや……いやょ……」
小さくつぶやきながら、姫は身をよじらせ
「タコさん……もうやめて……ソコはダメ」
まだ悪夢の中でタコに襲われているのだった。
いま現実に起きていることのほうがより悪夢らしい状況なのだったが。