第二章 姫君の敵はタコ-2
「ところで姫君さま」
気高い誓いを打ち消そうとするように声が響く。
「イカやタコ、いわゆるデビルフィッシュと呼ばれる生き物たちは、海の中でしか生息できないと言われているのをご存知ですかな?」
(……?)
あまりにも脈絡のなさすぎる話題に、ヤスミンはふと怒りを忘れた。
「ですが何事にも例外は有るものでございまして、何を隠そう、アメリカはオクラホマ州に生息するとうわさのあった品種を、ご縁があって入手しましてなあ……」
ぼう然とするヤスミンを置き去りに、老人は喜々として、
「……最近日本から雇い入れた部下が、古来よりその珍種の生物をあやつることに長けておりまして……なんでも(テンタクルウ)という術として伝承されておるとか……」
自慢げに語り続け、
「歳を取ると言葉が長くなっていけませんねえ……百聞は一見にしかずと申しますなあ……ポチッと」
独特のかけ声とともに、次のスイッチを押すのだった。
「……偶然にもこの国の地下水脈の水質と、くだんの生物の養殖の相性がバッチリ合いまして、このように」
姫が固定された寝台の、足の方向の壁が左右にひらいてゆく。
それらが開ききるのを待ちきれぬように、粘液にまみれた木の枝ほどのサイズの触手がこちらに先端を伸ばしてくる。
「……通常でも大型犬くらいに成長するのですが、この子は馬やカバ並みにサイズアップしてしまいましたよ」
老人の言うとおりだった。
先端こそ木の枝サイズであったが、近づくにつれその姿が明らかになってゆく。
枝というよりも木の幹の太さを持った丸太のような触手が8本、姫へと伸びてくる。
触手の長さだけでも狭い室内に収まりきらず、球状の本体は開いた壁の向こうに残ったままだ。
「……ンぅウウウウウウウウウウッ!!」
得体の知れぬ生物への純粋な恐怖が、くぐもった悲鳴となってヤスミンのクチビルから漏れ出た。
(……いやッ……怖い……怖いわ……)
叫びすら封じられ、逃げようともがいてもその手足は寝台に固定されている。
ヌラリ、ニチャリ。
湿った音を立てながらやがて、触手はその支配領域を広げ、部屋の天井や壁をおおってゆく。
(助けて……助けて誰か……お、お父様ッ)
気丈なヤスミンの目尻に涙が浮かび上がった。
(いやあ……)
天井にへばり付いていた1本が、黄金の首飾りを身に着けたヤスミンのえり首にまで接近して来る。
その先端は首飾りの宝石を粘液で汚しながらその上を撫で下がり、
ビリリッ。
光沢のあるシルクの民族衣装を引っ掛けたまま、姫の衣服を縦に引き裂いて行く。
(アッ……いやッ……は、恥ずかしい)
羞恥に頬を染める姫の視界の中で、粘液をなすりつけられた姫自身の可憐な乳房やヘソ、そしてシンプルな下着までがあらわにされていった。
生物としてはただのタコであり、人間の女性に対する性欲や興味など持たぬはずである。
そのタコが、女性を器用にハダカにしようとしている。
それこそが老人の言った、テンタクルウの術と言うものなのだろうか?
「イヒヒヒヒ……ヨシ、脅迫用の動画撮影はこのくらいで充分でしょうかね……さきほどここを襲ってきたココダット王国軍の殲滅の映像と合わせて、送りつけてやるとしましょうか………むむっ?!」
録画ボタンを停めた直後、老人が驚きの声を上げた。
(んアッ……いやあ………ぁ、あんッ)
衣服を破るだけのデモンストレーションだけの計画だったが、肝心のタコの足はそのまま、破れた衣服の隙間からヤスミンの肉体へと忍び込み始めていたのだ。
「い、いかん……ろ、録画ボタン、録画ボタンッ」
老人はあわてて録画を再開しようとするが、あせって全く違うスイッチに触れてしまう。
ウイーン……ガシャン。
気を付けの姿勢で固定されていたヤスミンの両手足が、手かせと足かせごと大の字に開かされて行った。
「いかんいかん……いかんぞぅ」
あせる老人をよそに、両手をバンザイの形に、両足を大股のへの字に開かれた姫に対して、タコの動きは遠慮がなくなって行く。
「むふっ……」
小さな乳首のかたほうを探り当てた1本は、充血して硬くなり始めたソコにからみついて来て、ヤスミンは思わず熱いため息をついた。
(ああそんな……そんなところに触れては)
心の中でいくら制止を求めても、タコ相手に通じる訳がない。
(ああ触れては、なりませんッ)
ぎゅっと固く目を閉じ、声を上げぬよう唇を噛みしめる。
「……んフン……むふンッ」
もう片方の乳房全体を柔らかく、いくつもの吸盤で吸い付かれる。
(ああそんな……跡が、吸ったあとがお乳に……お乳に残ってしまいますッ)
それほど強い吸引ではないのだが、姫にとっては強烈な刺激なのだ。
(ああッ?……だ、ダメです)
両乳房以外の場所を刺激することも、タコは忘れていなかった。
民族衣装風のドレスのスソから忍び込んで、細いスネからむっちりとした若々しいモモ肉に、螺旋状にからみついて這い登っていた1本が、汗ばんで貼り付いた下着の上から、
ニチャリ、グチャァ。
(ああッ……なりません……そこだけはッ)
粘液にまみれた先端を、彼女の身体の中心に押し当て始めたのだ。
粘液を吸い込んで透け始めた下着の上から、無数のイボのような吸盤がついた先端が、何度も、何度も。
グリッ、グリグリ。
豆粒状のイボたちが、濡れた下着をこすり上げる。
(ああ……わたくし……いったいどうしてしまったの)
いつしかヤスミンは、その触手を迎えいれるかのように、ゆっくりとした動きだが自分から腰を相手に突き出すようにくねらせ始めていた。
(ああ……ダメなのに……ダメなのに……)
おそらくは男性との体験はおろか自慰の経験すらあるかどうか怪しい彼女にとっては全く無意識の行動であった。
(お股が……お股が勝手に……動いてしまいます……)