第一章 不二子の敵は忍者-1
(まったく、ナニが姫さまのハタチの誕生日よ……若いからって良い気になってお誕生祝いなんてやってるから誘拐なんかされちゃうんじゃない)
着地時にワンピースにへばりついた砂ボコリをはらいつつ、気の毒な今回の被害者に向かって毒を吐いた不二子である。
(……それにしても)
(誘拐された姫君の救出の報酬がカレーライスだけなんて、石油の一滴も出ない、こんな貧乏くさい国の姫様なんか誘拐して、いったいなんの得があるっていうのかしら?)
何か未だおおやけになっていない、利益につながる秘宝や資源でも存在するのか。
あるいは単に、ルパンたちをおびき寄せるワナかもしれないが。
(そんなことより、早く砂漠から抜け出さないと、おばあちゃんになる前に干物になっちゃうわ……)
見も知らぬ、気の毒な姫君ヤスミンの運命も、手に入るあてもない利益についても、今はどうでもよかった。
急に輸送機から飛び出してしまったせいで飲み水も食料もまったく準備が無い。
あるのは愛用のベレッタと、スペアマガジンが2つ、ガーターベルト型ホルスターに収まっている。
あとは、今胸元から取り出して、くちびるだけでも干乾びないよう塗り付けている薄紅色のリップスティックだけだった。
不二子自身の生命の危機と言ってよかった。
あてもなく歩き回るほうが危険だと言う事くらいは彼女にもわかっているが…
(……!?)
すぐそばの、できるだけ大きな砂丘を見つけ、周囲を少しでも見渡そうと登りはじめた時だ。
(黒煙?……それもたくさん)
いくらも登らないうちに、数台の装甲車や戦車が破壊されて横転し、まだ真新しい煙をあげていたのである。
付近の砂丘がいくつものクレーター型にえぐれていて、そちらもドス黒く焼け焦げているのは、ここで砲撃や爆撃があったのだろうか。
戦闘の形跡に気づいて、思わず反射的にベレッタを構える。
彼らを攻撃した、極めて友好的ではない相手が、この周囲を捜索しているかもしれないからだ。