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"Tacki" for prudish Meg
【調教 官能小説】

第三話 契約の罠-3

「話し合いというほどのことじゃなくてさ、デート中に冗談めかして、キスしてもいいかな?えーどうしよう?えいっ!みたいな流れでしちゃうこともあるかもしれないし。契約書だから堅い表現にしてあるってだけで。」
「そういうことですか。あとお金の話になるんですが、手附金3万円ていうのはちょっと。転職して1年の私には大きい金額ですよ。全然奢ってくれない、っていうのもテンション下がりますね。私のテンションが上がるようなデートをしてくれて、盛り上がれば、その、さっき仰ったようなこともあるかもしれませんよ?」
 芽美は、正面のソファに座ってこちらに身を乗り出して話している拓海に身を近づけて、上目使いで可愛く言ってみる。

 すると拓海は少し悩むそぶりを見せると、こんなことを白状する。
「実は手附金についてはもう、千佳ちゃんからもらってるんだ。知ってのとおり、彼女は君にいろいろな男と経験を積ませたいみたいだからさ。それに、もちろん奢るつもりはあるんだが、これは一応仕事を請け負った正式書類として残すものだから、あんまり変な契約にすると税務署の監査に引っかかったりするからね。時々1円入札とかで特定の相手に便宜を図りすぎて事件になったりするでしょう?スケールは小さいけどあれと同じこと。小さな事務所だから、ちょっと目をつけられただけでも大変なんだ。」
「えっ、千佳先輩が?でも先輩は私と孝さんに別れてほしいはずだからなぁ・・・って一番大事なこと忘れてました!私が他の男性とデートしたりしてるってこと、孝さんにはどうやって伝えるんですか?!彼に知ってもらわないと、何のためにやるのかわかりませんよね!?」

「芽美ちゃんが伝えればいいじゃないか。最近デートに誘われましたって。」
「ええっ、そんなことできませんよう。そんな勇気ないし。」
「わかってる、今のは冗談さ。デートする場所を孝さんや彼の知り合いの目につきやすい場所にしたり、僕が役所で生活課の女性に口を滑らせたり、千佳ちゃんから孝君の友人に伝えてもらったり、ちょこちょこ情報流せば確実に伝わるから。」

「そこはしっかりお願いしますね。孝さんに、その、男としての自信を取り戻してもらうほうは?」
「そっちのほうは芽美ちゃんは知らないほうがいいと思うよ。」
「えー、なんだかイヤな感じですけど・・・・。まぁ、そうでしょうね。わかりました、お任せします。」

「納得していただけたところでサインをお願いしようかな?ご依頼者様用と事務所用、つまり芽美ちゃんに渡す分と僕が管理する分ということで、同じ内容の書類2枚にお願いしたい、この2枚に。」
 そう言って拓海は、ティーセットやフライドチキンのパックその他で散らかっているテーブルの狭い空きスペースに、芽美に見せた2枚の紙をサインしやすいように重ねて置き、芽美にペンを渡す。

 芽美がペンを手にとって1枚目にサインし、2枚目に移ろうとした時、拓海があっと声をあげる。
「ごめん芽美ちゃん、日付のところが間違って、今年は平成28年なのに27年になったままだった。修正してプリントアウトしなおすから、ちょっと待っててもらえる?」
「ならトイレに行ってきます。場所はあそこですね?」

 紅茶が美味しかったのとチキンを食べて喉が渇いたのとで3杯も飲んでしまった。飲みすぎだったかもしれない。芽美は立ち上がって部屋の隅の洗面所へ向かう。立ち上がるときにくらっとしてしまい、あんな少量のブランデーで酔うなんて、よほど疲れが溜まってるんだわと思う。

 用を済ませて戻ってくると、テーブルの上に2枚の紙がおいてある。芽美がサインしやすいように上下に少し平行してずらして『乙』の空白欄が上下近くに並ぶようにして置かれ、ずれないように文鎮で真ん中を押さえられている。

 といっても下の書類も年の箇所が正しくプリントされていることが確認できるよう、日付から下が見えるようになっている。甲の箇所にはすでに2枚とも、桐原拓海と自筆で記入されている。
 先ほどと同じ位置に座っている拓海から高級そうな万年筆を受け取ると、芽美は1枚目の日付を確認してサインし始める。拓海が平成28年となっている箇所を指差しながら話している内容を聞き流しながら。

「毎年、前年の書類を流用するから、こういうことってよくあるんだよね。芽美ちゃんもそういう経験あったりするでしょ?保育園の書類とか。ほら、こっちもちゃんと直ってる。今回の提案が芽美ちゃんの幸せにつながるといいね。」
 2枚目の日付もちらと見て平成28年であることを確認すると、芽美は、そうですね、とあいづちを打ち、2枚目の乙と書かれた右側に読みやすい丁寧な文字で、今回の作戦への期待を込めて、大きくはっきりと『吉野芽美』と自分の名前を記入する。

「ありがとう、保管用のコピーをとったら芽美ちゃん用の書類を渡すから、もう少し待ってね。」
 拓海はサインされた書類を重ねると、応接室から執務室へと続く扉の奥へ消える。コピーをとった後も、がたがた、かちゃかちゃと音をさせて何かをやっているようだ。音が静まると右手にカクテルシェーカーを、左手に青系の色のついたカクテルグラスを持って戻ってきた。


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