第二話 提案-2
「私の答えが核心をついてるっていう意味がわかりました。でも、この調査が孝さんのことと、どう関係あるのでしょうか?」
「そこなんだが、芽美ちゃんは『別れさせ屋』という商売を知っているかな?昔テレビでもそんなドラマを放送していたけれど・・・まだ子供の頃だから知らないか。」
「名前から想像つきますよ。恋人や夫婦のどちらかにアプローチして、好きにさせたり浮気させたりして二人を破局させて別れさせる商売ですよね。なんか色々やばそうな。」
「そうそう。探偵事務所や興信所がやってたりするグレーな商売。詐欺みたいな商売が多くて、公序良俗違反で訴えられた事務所もあるらしい。」
「んー、よくわからないんですけど。孝さんが私以外の女の子と付き合っていて、拓海さんが私のために『別れさせ屋』として、二人を別れさせてくれるってことですか?」
「違う違う、逆。僕がやっているのは『くっつけ屋』だよ。ある男(女)がある女(男)に好意を抱いてアプローチしてるけれど意中の女(男)は自分を異性の友達程度にみていて恋人になってくれない。あるいは、恋人同士として交際していたのに相手の気持ちが冷めつつあったり、他の異性が気になりはじめていて、このままでは別れてしまいそう。そんな二人をくっつける仕事。」
「孝さんと私の仲をとりもってくださるってことみたいですね。でも具体的にはどうするんですか?まだよくわかりません。」
「そこを今から説明するよ。その前に君たち二人の現在の関係を正確に認識しておきたいんだけどいいかな?」
芽美は返事を躊躇う。しかし結局は頷いた。
「・・・・はい。」
「芽美ちゃんは、昨年夏からの孝君からの猛アプローチに負けて秋から交際をはじめた。」
「はい、そうです。」
「その頃は彼のほうが積極的で、よく連絡してきたり、デートに誘ってきたりした。」
「はい。」
「そうやって彼からの連絡を待ったりデートに応じているうちに、芽美ちゃんも彼のことが好きになって、キスやペッティングを許し、口でしてあげるようにもなった。」
「知り合いにそうやって冷静に分析されると、とっても恥ずかしいのですが、まだ続きます?」
「まだ続く。でも、からかったりしないから安心して。そしてお正月、とうとう初エッチをすることに。」
「間違いがあれば指摘しますから、いちいち区切らないで続けちゃってくださいよ、もう。」
「了解。でも童貞の孝君と処女の芽美ちゃんの初エッチはうまくいかず、気まずいまま別れて帰宅した。」
「え、孝さんて30歳にもなって未経験だったの?」
黙っていると言った直後、すぐに口をはさむ芽美。
「千佳ちゃんが調べたところによるとそうらしい、正確には『素人童貞』だな。」
「え、千佳先輩にそんなこと調べさせたんですか?」
「もちろん違うさ、彼女が自主的に調べて教えてくれたんだよ。わかるだろう?」
「先輩は私が孝さんと付き合うの反対ですしねぇ。それに・・・」
拓海さんと付き合ってほしいみたいですから、という含みをもたせて芽美は言う。
「でも、いったいどうやって調べたのかなぁ?孝さんに直接聞いても、絶対言わないでしょうし。」
「孝君の職場の同僚を飲みに誘ってカマをかけたらしい。凄い行動力だよね。」
「先輩は尊敬してますけど、こういうことで能力を発揮して欲しくはないですねぇ。」
そういって芽美は溜息をつく。
「話がそれましたね。続けてください。」
「えーと、そう、気まずく別れた後、孝さんが1月1日付けの人事異動で、県でもっとも忙しい部署の一つである社会福祉課に異動したこともあり、デート回数も、連絡をくれる回数も激減。それ以降、会ったのは1月の中旬に1回。2月初頭に1回。いずれも平日の夜にファミレスでご飯食べて車で送ってもらっただけ。」
「そうですね。」
「で、2月14日のバレンタインデーの日曜日。孝君の時間がようやく取れて、久しぶりのデート。チョコを渡して、原宿を散歩して、カフェでお茶して、渋谷で映画をみて、居酒屋で飲みながら食事したあと、円山町をウロウロして芽美ちゃん主導でラブホテルに入ろうとする。しかし渋る彼と口論になり、孝さんは芽美ちゃんを残して帰宅。泣きながら途方にくれていた芽美ちゃんは僕に発見され、お持ち帰りされる。」
「お持ち帰りはされてませんから!朝まで居酒屋でくだを巻いてましたけどっ!」
「お、ちゃんと聞いてるな。」
「そりゃ聞いてますよ。間違えがあったらまずいですもの。」
「その後、孝君からは3月中旬に約2週間、北欧に福祉政策視察の海外出張に行くとの連絡と現地到着の連絡が届いたきり、連絡がないまま20日の今日を迎え、街コンに参加。以上で合ってるかな?」
「まあそんなとこです。」
「まとめると、孝君はエッチの失敗以降、仕事の忙しさを理由に芽美ちゃんと会うのを避けている。連絡をくれる回数が減り肉体的接触もなく、気持ちが離れていっているのを感じる。彼を好きになってしまった芽美ちゃんとしては、このままフェードアウトしてしまうのは嫌だ、ということだね?」
「全くその通りです。他に好きな女の子でもできちゃったのかな?このまま疎遠になっちゃうなんて我慢できません。なんとかして仲良しに戻りたいんです。」
このように話す芽美の顔には、今にも泣き出しそうな表情が浮かんでいる。