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お江戸のお色気話
【その他 官能小説】

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お江戸のお色気話、その11-3

次に、老人は思い出したように夜這いの話をし始めた。

その男の名前はその界隈では有名な色男の玉五郎と言った。
街で美しい娘、名前をお染めと言うが、その男が娘を見初めたのがきっかけになる。
しかし、玉五郎は遊び人で、もとより結婚する気はない。
お染めを誘ったのはただ、娘と交わりたいだけだった。
或る日、玉五郎は神社の境内に娘を誘った。

「明日の夜、あんたの家に夜遅く忍び寄るから、裏の扉の鍵を外しておいてくれ」
「わかったわ、玉さん、暗いから用心してね」

たまたま、そこを通りかかったお染めの家の隣の女房が、それを聞いていた。
そして、お染めの母親のお喜代にその告げ口をしたのである。

「ねえ、奥さん、あなたの娘さんが、なんかやさ男と約束していましたよ。
明日の夜に夜這いをするらしいですよ」

「えっ? 本当ですか、どうしましょう。でも有り難うございます」
お染めの母親は夫がこのところ、夜の相手をしてくれないのに不満をもっていた。
もし、(そんな若い男なら)とお喜代は思うようになっていた。
次の日、娘のお染めは、母親の前に坐らされていた。

「あのお染めや、お話しがあります」
「はい、なんでしょう、お母さん」
「明日の夜のことです」
「えっ?」 

その言葉に娘は不安になっていた。男のことは誰にも話していない。
そのことかしら? と不安になってきた。

「或る人から聞きました、今夜、夜這いがあるそうじゃない」
「ええっ……」
「そんなはしたないこと、お母さんは許しません」
「そ、そんな」

いつもは優しい母親は別人のようだった。
もし男と今夜の約束したことを裏切ったら、もう男とは終わりになるかもしれない。

お染めは悲しくなって、嗚咽して畳に伏せていた。
「お母さん、どうか許して下さい!」
しばらくの沈黙の後で

「それならば、一つだけ、条件があるわ、それなら……」
「はい、お母さん、何でも言うことを聞きます、それとは?」
「そのとき、私にもお相手をさせなさい」
「えっ?」

初め、お染めはその意味が分からなかった。
「私もあなたと同じようにその男と交わらせなさい」
「え、えーっ!」

お染めはその言葉に驚いていた。
母親のお喜代はお染めを抱き締めながら涙を溜めながら言った。

「お染め、お母さんはとんでもないことをお染めに言っていると思っているわ。
でもね、女は男に抱かれないと、駄目になってしまうの、お父さんはあんなだし。
私は女としてこのまま死にたくないのよ、譲ってとは言わないわ。
だから、その人と一緒に交わらせて欲しいの、お願い!」

お染めは泣いてすがる母親の心が痛いほど分かった。
しばらく考えていたが、ようやく決心した。

「わかりました、お母さん、そのようにします。でも玉五郎さん次第かもしれないです」
「いいわ、それはそのときで、あとは流れに任せましょうね」
「はい、お母さん」




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