『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-3
「ほほほ。やっぱり根っからの愚か者の匂いだよ」
黒木麗という女性と同じように俺のことを愚か者と罵る老婆もテンの毛皮のコートを羽織っていた。
「わ、わたしは……黒木麗さんにお会いしたいんですが」
「そんなこたぁ、わかってるさ。何のために来たんだ」
口髭男が蔑むような目で俺を睨みつけた。
「ほほっ。どうせこの男は嘘しか言えないよ」
老婆がのっそりと立ち上がって、杖をついて俺の方に歩んできた。
「黒木麗さんからいつだって会いに来いとおっしゃって頂いていたものですから。わたしは一応、絵描きなんです」
「絵描きだろうが、屁こきだろうが、どうしたって言うんだ。何のために来たのか尋ねてるんだ。それにだ。麗様のことを気安く呼ぶんじゃない。麗様だっ」
男が苛立ったような大声を雷のように俺の頭の上に落とした。
俺には男の質問に答えることが出来なかった。何のために会いに来たのか自分でもわからない。
「あたしにはわかるよ。オマエは自分の本性が知りたいのさ」
老婆の強烈な脂粉の匂いが俺を包みこんだ。
「ほほう。こいつは人間のクズのくせに、自分がクズってことがわかってなくて、路頭に迷ってるってことか」
男が急に俺の身体を軽々と持ち上げ、カウンターの上にヒョイと乗せ上げた。
「さあ、自分の口で言ってご覧。麗様に会いに来たのは、何のためだい?」
老婆の真っ白い厚化粧の顏が俺を嘲笑っていた。
口髭男も俺を人間として見ていない。クズを見るような目で見下している。
「わたしには……わかりません」
「ほほほ。オマエはクズ以下ってことね」
老婆の骨ばった手が伸びて、ズボンの上から俺の股間をギュッと凄い握力で握り潰した。
「あ、ああっ……嫌っ」
俺は顔面蒼白になって、身悶えた。
老婆の手で股間を握り潰される恐怖に襲われた。
「なんだ、あんた……黄色い声なんか出して、まさか勃たせてるのかい?」
「オマエ、チンポだけは一応一人前なんだね。いっそのこと、このまま引っこ抜いてやろうかね」
老婆の手で本当に股間から引っこ抜かれそうだった。
男根を失った自分の姿など想像したことも無いが、自分の存在理由すら失ったような喪失感に陥ることだろう。
男でなくなってしまう。
人間でなくなったようにすら思うだろう。
「ゆ、許して下さいっ」
俺は真顔で老婆に懇願した。
「麗様にお会い出来るような資格があると、オマエは思ってるのかい」
老婆が真面目な貌をして問いかけてきた。
「資格ですか?」
「へへ。あんたにゃ、麗様の前に出る資格は無えな」
「ほほほ、仕方ないわね。この男を素っ裸にしておやりよ。少しは目が覚めるだろうさ」
老婆はようやく俺の股間から手を放して、男に命じた。
男はカウンターから出て来て、俺のずぶ濡れの服をすべて剥ぎ取ってしまった。トランクスも乱暴に引き千切られて丸裸にされた。
(ど、どうして、こんな目に……?)
俺は恥ずかしくてたまらない格好にされていた。
カウンターの上で丸裸にされ、犬のような四つん這いだ。
その時初めて気が付いたが、男も素っ裸だった。おそらく二十センチを超える巨大な肉塊をギンギンに聳え立たせていた。俺の二倍はありそうな巨根だ。
「ほら。オマエも、この男のようにもっと立派にチンポを勃たせてご覧よ」
老婆が杖の先で俺のしょげかえった肉茎を突っついた。ますます縮み上がるはずの肉茎がビクンと跳ねあがる。
「ああっ、止めて下さいっ」
「ほほっ。恥ずかしいチンポだねえ」
「こんな粗末なモノで麗様にお会いするなんて、おこがましいぜ」
男の立派な巨根が四つん這いの俺の目の前に突きつけられた。ドキドキするほどの近さに迫ってきて、その凄まじいエネルギーを頬に感じたくらいだ。
(ああっ。なんてデカいんだ)
大きさだけではなく、ギラギラした迫力のある漲りでも俺は完璧に負けていた。その迫力に圧倒され、ゴクリと生唾を呑み込んだ。
もしも男からその巨根をしゃぶれと命じられていたなら、俺は躊躇することなくそれを口に含んでいたような気がする。
「れ、麗様にお会いしたくて来たんです。どうか会えるようにして下さいっ」
俺は哀願するような口調で老婆に訴えた。
「ほほほ。それじゃ、何のために麗様にお会いしたいのか、正直に言ってご覧よ」
老婆が黄色い歯を見せて嗤った。
「ああっ。わたしは……一カ月前に麗様とお会いしたんです。その時に薄っぺらな自分を悟らせて頂きました。愚か者のわたしを叱って頂きました。わたしは……クズなんです」
「ぐはは、そうさ。あんたはゴミ屑だ」
男の巨根がそう叫んでいるような気がした。男の価値が男根の大きさで決まるはずもないが、あまりの巨大さに圧倒された。
「クズならクズらしくおなりよ」
老婆の杖が俺の勃起した男根に一鞭くれた。
「ううっ……どうすれば、いいんです」
「そんなことも考えられない能無しかね」
更に杖で俺の勃起が叩きのめされた。バキッと嫌な音が鳴った。
「あぎぎっ。許して下さいっ」
俺はカウンターの上で仰向けに寝転んで、両手両足を天井に向けて大きく広げた。犬や猫のやる全面降伏の姿勢だ。
股間の男根は恐怖におののいていた。
「ほほほっ。少しは自分を曝け出せたようだね。大きく口を開いて、舌をベローンと出してご覧よ」
老婆に言われるがままに俺は恥ずかしい顔になって、それを晒した。
砕け散ったプライドが痛むこともなかった。
「それじゃあ、麗様のお屋敷に連れて行ってやろうかね」
「……あ、ありがとうございますっ」
老婆の言葉が嬉しくて、俺は大きな声で礼を言った。