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『洋蘭に魅せられたM犬の俺』
【SM 官能小説】

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『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-2

 (2)
 あの謎めいた美しい女性。
初対面の画廊で俺の頬を何度も打ちすえ、二本の細い指で俺の口腔を犯し、侮蔑に近い酷評を吐きかけた黒木麗という優雅な物腰の女性。彼女が最後に言い残した言葉がずっと俺の頭の中を掻き乱していた。
「うふ。あなたが本気で女を描きたいって思ってらっしゃるのなら、いつでもわたしに会いにいらっしゃいな。あなたがどんなに愚かなゴミ屑のような男なのか、教えて差し上げますわ」

 この言葉を思い出すたびに呼吸が乱れ、凄まじい磁石のような力で引き込まれた。
 あの魅惑の女性が婉然と微笑んで、俺を誘ってきた。
 日を追うにつれて男としても、絵描きとしても完璧にあの女性に屈服してしまいたいという誘惑に駆られた。

 一カ月も我慢出来たのは、俺のプライドのささやかな抵抗だ。
会いたい……もう一度彼女に会いたいという思いが、狂おしく切ない熱情となって俺の身を焼き焦がした。
会ってどうなるのか、まったくわからない。また馬鹿にされ、突き放されるだけかもしれないが、会わずにおれない。

 彼女がくれた黒地に金色の文字の名刺に書かれている住所だけを頼りに、夢遊病者のようなフワフワした気分で電車に乗り込んだ。電話番号がわからないのでアポ無しでも仕方がない。たとえ無駄足になっても、とにかく彼女の家まで辿り着きたかった。
 郊外に向かう私鉄電車で三十分。駅前の商店街を抜け、しばらくして急な坂道に差し掛かった。雄大な丘陵地に向かって上って行く曲がりくねった坂道だ。息を切らして上っていくうちに方角が怪しくなってきた。
そして空模様まで怪しくなり、すぐに猛烈な豪雨に見舞われた。

 車も人も犬の姿も見掛けない坂道。その脇にポツンと一軒建っている古びた食堂が目に入った。営業しているのかどうかも怪しいさびれた様子だったが、とにかくそこに転がり込んで雨やどりをさせてもらおうと思った。

 ドアを押し開けると、カウンター席が八席だけの細長い作りの薄暗い店だった。マスターらしき口髭を生やした男がカウンターの奥からジロッと胡散臭そうに睨みつけてきた。
「ひどい雨なので、助かりました。コーヒーをお願い出来ますか?」
 俺はなぜか子供が悪戯を見つかった時のような疚しさを覚えながら、一番手前の席に腰を下ろした。
「あんた、全身ずぶ濡れじゃないか。困るんだよな」
 男は椅子が濡れてしまうと文句を言ってきた。
「あ、ごめんなさい」
 俺は椅子から跳び上がるようにして立ち上がった。
「あんた、コーヒーを飲みにわざわざこんなところまで来たんじゃないんだろ」
 面倒くさそうな表情を浮かべながら男も立ち上がった。驚くほどの長身だ。
「え?」
 意外な言葉に驚いて、男の顏をまじまじと見あげた。
「あんたの顏を見りゃ大体のことはわかるよ。あんた、麗様に会いに来たんだろ?」
 男は口髭を自慢げにいじりながらニヤリと嗤った。
「えっ……マスターは黒木麗って方をご存知なんですか?」
 どうして男があの女性のことを知っているのか、不思議でならない。
「どうかな……あんたのような男に麗様がお会いになるかな」
 男が一番奥のカウンター席に座っていた老婆の方を振り返った。
 白髪に派手な色の羽根飾りをいっぱい付けている老婆もこちらを見ていた。皺だらけの顏を真っ白に厚化粧している。
「ほほほ。ここに来るような男は、ほんとクズばかりだからねぇ」
 老婆の真っ赤に塗った口唇が気味悪いほど横に長く裂けた。
「あんた、あの婆さんに気に入られないと、麗様には会えないんだぜ」
 男が小声で忠告してくれた。
「ど、どういうご関係なんでしょう」
「ひっひひ。どういうご関係かって……あたしゃ、麗様に言われて、毎日ここでオマエを待っていたって訳さ」
 老婆の言うこともどこか変だった。何が何だか理解出来ない。
 異次元の異妖な世界に足を踏み入れたような気分だ。
「それにしても、オマエは匂うねぇ……」
 老婆が高い鼻をひくつかせた。
 俺はやけに緊張して、老婆の次の言葉を固唾を呑んで待った。


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