12歳の後背位-1
全身からどっ、と汗が吹き出る。室温が高いからじゃなく、綾菜ちゃんの言動で自律神経が崩壊したからっぽい。
自分の荷物を持たずに電車を降り、親が帰ってきていない自宅へ俺を誘導し、寝室に招き入れた。この流れで俺の動悸はバブル期の企業業績みたいに右肩上がりになっていたけれど、綾菜ちゃんに手を握られ、綾菜ちゃんの口から甘い息臭とともに「性」という単語がこぼれ出た時点で、交感神経節のコントロールが完全に失われた。言うまでもないけれど副交感神経も過剰に刺激されて陰茎に血液が大量に流入し始めている。もう薄手のチノパンだからって気にしている余裕はない。
顔面に汗をだらだらと流して絶句している俺に、綾菜ちゃんが無邪気な口調で続ける。
「綾菜ね、男の人ってどうやってこーふんして、どうやっておちんぽが硬くなるかとか、ちゃんと教わりたいんだ」
おちんぽ、の、ぽ、を発音するときの、唇がこすれ唾液と摩擦する音が耳朶に響く。12歳の綾菜ちゃんのあどけない顔と、AVで女優さんがエロさを強調するために半濁音を混じらせて言うときのような性器の名称。しのちゃんがおちんちん、と言うのとはまた違う、綾菜ちゃん狙って言ってるよね、と感じさせる淫語。
「いいでしょ?お兄ちゃん」
ぐっ、と顔を寄せて、ちょっとささやくようにそう言う綾菜ちゃんの甘酸っぱい湿った息。握った手を前後に振るように動かす綾菜ちゃんにつられるようにぎこちなくうなずくと、綾菜ちゃんは舌先をちら、と見せた。なんだこの、俺が好きだったジュニアアイドルがDVDで見せた舌チラの生き写しのような光景は。
「やったー。お兄ちゃんやさしいから、絶対にオッケーしてくれると思ってた。あ」
綾菜ちゃんが立ち上がる。ふわっ、と空気が動いて、綾菜ちゃんの身体から立ち込める汗と12歳の体臭が混じった、二次性徴真っ盛りの少女の甘い匂いが俺にそよぐ。同じ小学生でも、2年生のしのちゃんとはだいぶ違う、性ホルモンの分泌が増加し始めた6年生の綾菜ちゃんの体臭。
「ごめーん、エアコンつけてなかった。お兄ちゃん汗びっしょりだよ」
学習机の上にあったリモコンでエアコンのスイッチを入れた綾菜ちゃんが、白い背もたれの椅子に腰掛けて真正面から俺を見る。揃えたひざ小僧の上に両手を置いて小さく首を傾げる。綾菜ちゃんまさかあのDVD見たことあるんじゃないかと思わせるくらいデジャビュな光景。
「じゃあ、綾菜が質問するから、さっきの宿題みたいに、やさしく教えてね」
「あ、ゔん……」
乾ききった喉を無理やり開いて返事する。涸れたような、かすれたような声が漏れる。
「お兄ちゃんは、どういうときにおちんぽ硬くするの?」
いきなりか。
「……そりゃ、その、やっぱあの、エッチな気持ちになったら……」
「どうしたらエッチな気持ちになるの?」
「え、まあ……女の人の裸とか見たら……」
「こういうの?」
そう言って綾菜ちゃんは学習机の文房具の下に埋もれていたタブレットを引っ張り出して、ぽんぽん、と画面を何回かタップし、その画面を俺に向けた。うえ、綾菜ちゃんこれって、海外サーバーの無修正動画アップサイトじゃん。日本人の ―ああん、いくぅ、いっちゃううう、とあえいでるからそうだろう ―女の子が正常位でセックスしている動画が10.2インチの画面に映し出されている。それも無修正で。
「……綾菜ちゃん、こういうの見てるの?」
「うん。6年になったくらいから見てるよ」
綾菜ちゃんの母親がガラケーで電話している姿を思い出した。ペアレンツコントロールなんて、たぶんその言葉すら知らないだろうな。
「なんで、こういうの見るようになったの?」
「えー、だって興味あるから」
ああああん、出してぇ、あたしのおまんこの中にいっぱい出してぇ。ちょっとロリっぽい女の子のあえぎ声の途中で動画を止め、タブレットを学習机に戻した綾菜ちゃんは、はにかむような笑顔でそう言った。髪型は違うし綾菜ちゃんはどちらかといえば色白だけど、あのちょっときわどい水着で俺を何度も誘惑してオナニーしか射精の機会がない精液を毎晩のように搾り取っていた、11歳のジュニアアイドルとそっくりの笑顔。いや、年齢がぜんぜん合わないしそんなはずはないのだけれど、いま目の前にいるのがそのジュニアアイドル本人なんじゃないかと錯覚させるほど、綾菜ちゃんの表情や仕草は似ている。
「あのね……あ、ママにはぜったい言わないでね」
綾菜ちゃんが人差し指を唇に縦に当てる。くぁ、この仕草もDVDにあったぞ。