冬のたそがれ-1
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冬のイルミネーションが輝く街を離れて、私とママ、そして運転する男のひとを乗せたレンタカーが走ってゆく。
私は後ろの席で「民族衣装かよ」と思うほど、黒いストールを顔をおおうように巻きつけて黙っている。
ママも男のひとも黙っている。車の中はラジオの音楽だけが響いている。
暗い山道に入って間もなく、きらびやかなイルミネーションにふち取られた建物が現れる。車は、その光の中に走りこんでいった。
とたんに天井に粗末なLED電球がさがる、コンクリートむき出しのフロアーになった。その片隅に車を停めると、男のひとは何も言わずに降りていった。
ママも降りた。私にチラッと目くばせして。二人が奥の方に去ったのを見て、私は座席に寝そべった。
ストールをかぶったまま、まるで大きなサナギになったみたいに。
そこがどこか私はわかっている。
女のひとと、男のひととがエッチなことをするラブホテルだってことが。
ママはそこへ、いつも違う男のひととやってくる。
なぜか、私をいっしょに連れていく。
もちろん、その中に私が入ることはできない。
暑いころは、建物からちょっと離れた公園で待ってたけど、寒くなってからパーキングに停めた車の中に隠れて待つようになった。
ママと男のひとが「休憩」してる二時間ほどの間、まだスマホが持てない私は、ポーチから小さなラジオを取りだしてイヤホンで聞いている。
テレビの音声も聞くことができるから、画面を心の中で組み立てながら聞いている。
今夜は歌の特別番組だ……知ってる歌に合わせて口パクなんかしていると、
コンコンッ!
車の窓を叩く音がした。(ママ、忘れものかな?)と顔をあげたら、窓から知らないおばさんがのぞいていた。
(まずい、ラブホのひとかな……)車の窓を開ける要領がわからないから、とりあえず扉を少し開いた。
「どうしたの?」おばさんはハスキーな声で言った。
「ママを……」私は(このひとにもママにも、色々叱られそうだな)と思いながら言った。「待ってるの。」
「あら、そうなの。」おばさんはスッと車の中に入ってきて、私の隣に座った。
(まずい……私、捕まるかも)と思っていると、おばさんは私を抱きよせた。