『サヨナラの代わりに』-1
……貴方は貴方の人生を終える時……誰かを愛した事を思い出しますか?誰かに愛された事を思い出しますか?……
こんな件で始まる小説を何年か前に読んだ……題名も、作者も、内容も忘れてしまったが……このフレーズが僕の頭の中で渦巻いていた……
クリプトン球のぼんやり灯るダウンライトが、妖しく揺れる美穂の背中を、オレンジ色に染めていた……
僕に背を向け跨がった美穂は、口元から甘い吐息を漏らしながら……僕の肉棒を自分の悦楽の部位に擦り付ける様に、腰を上下にゆっくりと動かしている……
『ああーん……イイッ……ぁあああーん……』
美穂の喜悦の声は、徐々に激しさを増し……狭いワンルームの部屋を占拠したセミダブルのベットが、ギシッギシッと悲鳴を上げ始める……
……この部屋で、何度美穂の事を抱いたのだろう……
僕は、美穂の肉襞に肉棒を締め上げられながら、ボンヤリと天井を見上げていた……
僕は、日本が戦争に敗けて二十回目の夏に産まれた……今より物はなかったが、活気と希望に満ち溢れたた時代……
経済は右肩上がりに成長を続け……勉強をして、良い大学を出て、良い会社に入社すれば、幸せな人生が送れると……皆が信じていた時代……
二流大学を卒業した僕は、バブル景気に助けられ一流企業に入社を果たす……
僕が入社するとすぐに、景気は急激に降下局面に転じる……僕の入社から十年……短大を卒業した美穂が、僕の部署に配属された……
初々しい美穂の笑顔……出口の見えない混迷の時代、部署内にパッと一輪の花が咲いた様であった……
しかし、三十歳を越えた中年男に、卒業したての美穂が関心などあるはずもない……どちらかと言えば口うるさい僕は、当初煙ったい存在であったらしい……
真面目だけが取り柄の僕……日々の仕事を通じ、徐々に美穂の信頼を得ていた……同じ電車の沿線に住んでいると言うこともあり……美穂と僕の距離は徐々に縮まっていった……
僕の上で妖しげに揺れるオレンジ色に染められた透き通る様な白い肌……
美穂の背中には、薄らと汗が滲んでいる……僕は繋がったまま、美穂を背後から抱き抱え……真っ赤なバンダナで美穂の視界を遮る……
『あああっ……ああん……』
視界を遮っただけで美穂の体は、より敏感に反応をはじめる……これが最近の美穂のお気に入りのスタイルである……