未亡人との歪な関係C-5
祥太は手を動かしたまま、尋ねる。
「うーん……それが、いつもあんな態度取られてるってことなら然るべきところに言うべきなんでしょうけど。息子とも仲良くしてくれて、普段はとても気を使う優しい子よ?
今日に限っては相手のこと考えられないくらい疲れてて、距離感がおかしくなっちゃったんじゃないかな」
「そう……ですか」
首を揉む祥太の手が止まった。
その代わり、祥太は唾を飲み込み、佳織に大胆なお願いをする。
「僕も……本間先輩にキスしたい」
「え…?」
佳織は顔を強ばらせて、振り向く。
「ダメ…ですか」
祥太はひどく切なそうな顔をしている。
ーーだって、豊田ってイケメンだし、何もしなくても声かけられるだろうに。本間さんに、目つけるなんて見る目あるわ。
今になって、隼人のそんな台詞を佳織は思い出す。
佳織は首を横に振って、立ち上がった。
ノートパソコンを閉じると、その上に書類や、ペットボトルを置いて移動しようとパソコンを持とうとした。
「本間先輩、ごめんなさい……怒らないで……」
「違うの、怒ってるんじゃないの。若い子にそんなこと言われたら困っちゃうよ。からかわないで?」
佳織は苦笑いしながら言う。隼人の予想は当たっていたのだ。
秘めていたそんな思いを吐露したきっかけは、今日の隼人の態度を見ていたからだろう。
「からかってないですよ……武島先輩は良くて、僕はダメ…?」
「ううん、武島くんのことだって、あんなこと会社でしていいとは思ってないよ」
「そう……ですよね……でも、僕、見ちゃったんです……言いたくなかったけど……」
「え?」
「武島先輩が女子トイレ入っていったところ、見ちゃったんです」
佳織の毛穴がぶわっと開く感覚があった。
かぁあっと体が熱くなる。
(武島くんのバカ、見られてたの…?!)
「びっくりして、部屋に戻ったけど……そのとき、しばらく……本間先輩いなくて」
「そ、それは………」
「そのことだって本間先輩と武島先輩が付き合ってるんだったら、納得出来たのに」
祥太はうつむきながら口を一文字にしてぎゅっと噛む。
そして、肩を震わせていた。
「何があったかは知りません。でも、女子トイレはさすがにまずいでしょう……?……僕、内緒にしますから、キス……したいです」
祥太がにじり寄ってきて、佳織は思わず後ろの長テーブルに手を付く姿勢になった。
左肩に祥太の手が触れて、筋肉が強ばる。
「ーー絶対に言わないで」
隼人のことをかばわないはずがなかった。
隼人は佳織にとって後輩である以上に大事な存在だったからだ。
その事実を突きつけられて、怒りが込み上げているのがわかるほど、祥太の綺麗な顔が歪む。
「彼氏じゃないんですよね、でも……そんなに大事なんだ」
「そうだよ。あたしのことからかってるってことくらいで、彼の立場を台無しにしたくない」