未亡人との歪な関係C-4
やたらめったらからかってくるため、隣の席にいる佳織は腹を立て、部屋と連結した小さな会議室にパソコンを持ち込み、一人で仕事をしていた。
資料が広げられるし、一人になるにはいい場所である。
たまに先客がいることがあるが、今日は佳織一人だった。
(ーー最近武島くん、度が過ぎるんじゃないの……)
定時を過ぎ、自分たちの部署に女性社員がいなかったとはいえ、先日は女子トイレまで入ってきて佳織は犯されかけたのだ。
「今日残業するつもりじゃなかったのになぁ」
ぼそっ、と佳織が呟く。
スマートフォンを覗き込むと、時刻は十九時を回っていた。
会議室のドアは開け放たれた状態で、どうやら佳織以外の社員はこの部屋にいないように見えた。
ーー仕事が忙しく、悠斗とも会えていない。
冴子とのことだって時折思い出す。
そんな時に隼人にそっと触れられれば、快楽を覚え込まされた体は、どうなるかなんて佳織にはわかっている。
「ん…もう……」
苛苛しつつも、甘美な吐息が口から放たれたそのとき。
「本間先輩……」
ひょこっと開け放たれたドアから、祥太が佳織の名前を呼んで、覗き込んできた。
「えっ、いたの?誰もいないと思ってた」
「僕も、仕事残っちゃってて。僕達以外、帰っちゃったみたいです」
祥太はそっとドアを閉めて、佳織の前に小さいサイズのペットボトルと、チョコレートをいくつか置いた。
飲み物はホットミルクティーだった。
「甘いもの……取った方がいいです」
「ありがとう。助かる……ごめんなさい、後輩に気を使わせて」
佳織は包みを開けて、チョコレートを放り込むと、ミルクティーを少し口につけて、流し込む。
ふぅ、とため息をついた佳織が首を回すと、コキコキっ、と骨の音がした。
「んー。目もしょぼしょぼする」
「肩……揉みましょうか」
佳織が返答する前に、祥太は後ろに回って、そっと佳織の肩に手を置いた。
ぐっ、と親指に力を込める。
「え、悪いよ。パワハラになっちゃわない?」
「僕から申し出たんですよ。誰もいないですし、何も思われないですよ」
祥太の指が、濃い茶色のジャケットの肩の辺りを這う。
「ん…気持ちいい」
「良かった」
佳織は背後の祥太を信頼しきって、まぶたを閉じていた。
肩をしばらく揉んだ後、祥太は黒のタートルネックの上から、右手の親指と人差し指で首をつかむようにしてゆっくりと押していく。
「マッサージ、全然行く暇なくて……気持ちいい。色々ありがとう。それに……ごめんね、今日は。誰にも言ってないよね?」
「僕、言う相手いないですよ……」
「そう……信じてはいるけど、他言しないこと、約束してくれる?武島くんの立場が悪くなるのは嫌だから」
「あんなに、強引な感じだったのに、ですか」