強制捜査-4
山田は少し慌てた様子で、
「直ちに向かいます。」
「神木と城田、あと数名程度が潜伏先に居なかった模様です。」
「残っていたメンバー達は逮捕したのですが。」
「目下、二人を捜索中との事です。」
と話した。真理子は唸った、
「他の拠点の状況は?」
と聞くと山田が、
「他は問題無く進行中との事です。」
「大した抵抗も無く、負傷者なども今の所出ていません。」
と報告する。真理子はホッとした。急遽突撃隊は、武装の恐れの有る対象者に文字通り急遽する。爆音を伴う閃光弾を放り込み、動きを封じ反撃のいと間も与えない速さで制圧していく。彼らが大勢応援に来てくれたのは有り難かった。真理子は、
「応援が来たら、私は戻るから。」
と告げ電話を切った。銀三達の話し声が聞こえ、その方を見ると二つ有る机の一つにイチが座り、銀三と吉爺がイチの左右から何やら見ていた。真理子は近づき覗き込むと、イチはノートパソコンを操作して何かのファイルを開いていた。真理子は、
「証拠品に触らないで!」
と怒鳴る。三人はビックリして振り向く。銀三が、
「大きな声出すなよ。」
「見てみな、顧客名簿らしいぞ。」
と笑う。真理子が苛立たし気に、
「もう、勝手に開いて!」
「閉じて下さい。」
と叫ぶとイチは慌ててファイルを閉じた。そして、ノートパソコンの電源を落とす。銀三が、
「まあ、そんなカリカリすんなって。」
と笑う。真理子はキッと銀三を見据えて、
「応援が来ます。」
「皆さんは、早くここから出て下さい。」
「ご協力、ありがとうございました。」
と毅然として言う。銀三は全く気にする様子も無く、
「誰か、半グレの幹部らしいのが居なかったんだって?」
と逆に聞いて来た。真理子はギクっとして、
(聞いていたのか?)
(地獄耳だわ。)
と驚くと銀三はさも当然の様に、
「そいつら、ここに来るかも知れねぇぞ。」
「応援のヤツらが来るまで居てやるよ。」
と言う。そして吉爺を見て、
「吉爺、済まねぇが外の通りで見張りしてくれねぇか?」
「半グレらしき連中が来たら、イチに電話くれ。」
と頼むと吉爺は笑顔で頷き階段の方に向かう。銀三は吉爺の電話番号を知らない。痴漢グループで知っているのはイチだけだった。銀三は机の引き出しを開けながら、
「伝票とか入っているな、ガールズバーのか?」
と言いながら引き出しの中を掻き回す。真理子が、
「だから、勝手に触らないで!」
「証拠品かも知れないのよ。」
と注意するも銀三は平然と他の引き出しを開けていく。
「アンタも中探せよ、お宝見つかるかも知れねぇぞ。」
と真理子に促す。真理子は深々と溜息を付き、諦め隣の机の引き出しを開けた。
吉爺は店舗を出ると路地裏から通りに出た。来た時と同じで人通りも少ない、周りを見渡し少し先の飲料水の自販機の所に行く。コーヒーを買って飲み出し、
(あの店の入り口が見える。)
(ここで見張るかぁ。)
とズボンの後ろポケットに押し込んでいた痴漢御用達スポーツ新聞を取り出すと見る振りをして店舗の入り口を見張る。吉爺は銀三の痴漢グループでも古株でイチの仲間の一人でもある。
イチには色々世話になり、病気の時に一人暮らしの吉爺の為に食事や薬を買って来てくれた事や時々様子見に遊びに来てくれる事にも感謝していた。
リュウも知っていたが粗暴な面もあり好きでは無かった。だがイチの連れとくれば話は違う、その面では銀三と同じだ。吉爺はイチの為になるなら何でもするつもりだったのだ。
吉爺はスマホでは無くガラゲーだが、それにハンズフリーのイヤホンの端子を接続して店舗側と反対方向の耳にイヤホンを付ける。ガラゲーを新聞紙に置いて隠すと電話帳アプリからイチの番号を画面に出す。
銀三達は二つ有る机の引き出しを漁っていた、だがガールズバー関係の物しか出て来ない。真理子が突然、
「鍵が掛かっているわ。」
と呟く。机の右側の一番下の他より大きな引き出しだ。銀三がニヤリとして、
「お宝だ、鍵しなきゃならない程のな。」
と笑う。真理子は冷静に、
「開けて見ないと、分からないわ。」
と話す。イチが、
「吉爺に戻ってもらう?」
とスマホを取り出す。銀三は開かない引き出しの机の下を覗いていたが、
「ちょい待ち!」
と言い、黒い紐付きの小さな鍵を真理子に渡す。
「机の下の側面のフックに掛けて有った。」
と言うと、
「早く、開けたらどうだ?」
と真理子を急かす。真理子は頷き鍵を引き出しに差し込み回すとカチッと音がした。真理子が引き出しを引くと中身が現れる。イチが、
「銀さん、ナイス!」
と声を掛ける。銀三が得意気に、
「大体近くに置くもんさ、こんな簡単な鍵は。」
と知った被りをして言う。真理子は引き出しから小さめのブリーフケースを取り出した。そして、ジッパーを引き中の物を机に置く。黒色の大きめのメモ帳に見えた。真理子が手に取りページをめくる、銀三とイチが覗き込む。
銀三がメモ帳に名前とその横の肩書きを見て、
「名簿かぁ…」
と意外で残念そうな表情で言う。もっと他の重要な証拠になる物と思っていたらしい。イチが、
「でも、社長や大企業の取締役、官僚に国会議員の秘書とか。」
「VIPの名簿じゃ無いかな?」
「隠してあった訳だし、ノートパソコンの顧客ファイルとは別物の様な気するよ。」
と話す。真理子もそうかも知れないと思いながらページをめくっていく。