女らしく【10】『水着と浜辺と海水浴』-3
「はぁ…はぁ…」
「そうそう。もっと足を伸ばして」
大和に両手を支えられながらばた足の練習をする。
バチャバチャという水音に混じり、大和の指導の声が聞こえる。
「じゃあ手を離すから」
おいっ!ちょっと待て!オレはまだ…
大和の手が無慈悲にも離れる。
うわわっ!待て!ちょっ…
「ガハッ…ゴボッ、ゴボッ………」
塩辛い水が口から無理やり侵入してくる。
沈みゆく自分の身体。必死に手足を動かすが、ちっとも役に立たない。
やばっ…死ぬ……ゴボッゴボッ……
そのまま暗黒の海底へ……
「ほらマコト…足つくだろ?」
ゴボッ!?
足が何かに触れた。それは細かな砂の大地。
落ち着いて辺りを見渡すと此所は浅瀬…
「ゴホッ!ゴホッ!」
しっかりと二本の足で立上がり、呼吸を整える。
「…大丈夫か?」
大和が心配そうに背中を擦りながら聞いてくる。
「うぇっ…塩辛っ…」
かなり海水を飲んでしまった様だ…
喉の奥がヒリヒリする…
「ごめん…」
「大丈夫だよ。でもいきなりはびっくりしたぞ!」
「ごめん!本当に大丈夫か?」
ああ。ちょっと走馬灯が見えたけどな…
「でも、あのマコトが浅瀬で溺れるなんて」
そう言って安心した大和は口の端を歪めている。何だかうれしそうだった。
「う、うるせえ!誰だってな苦手なもんがあんだよ!!」
もう…からかうなよ…
…ただでさえ水着で恥ずかしいのに、さらに浅瀬で死にかけたなんて…
「一度、休憩しないか?」
その言葉に促され、浜辺の一画に立てたパラソルへ大和の背中にピッタリとくっつきながら歩いていく。
「そんなにくっつくと歩きにくいんだけど…」
「ごめん…人に見られたくないから……」
何だか他の連中の視線が気になる。今日は気温が高いということも災いして浜辺にはかなりの人間が集まっている。
空中からみたら黒ゴマばっかだろうな……
でも、大和にくっついていられる口実が出来るのはいいかも…