進展-5
「そう言えば、俺がアンタに電話はした後にリュウがまた連絡して来た。」
と銀三が言う。真理子は銀三を見て、
「何て?」
と聞く。銀三は思い出す様に斜め前を見て、
「会合の情報が役に立ったか聞いて来たから、そうだと答えたよ。」
「それと、急な会合の理由はヤクザと連中が揉めてるんだと。」
「酔い潰した下っ端から聞いたとよ。」
と話す。真理子は銀三を見つめ、
「それ、本当?」
「他に何て?」
と迫る様に聞く。銀三はたじろぎ、
「ああ、そう言ってた。」
「最近、よそで配達中に何人かいなくなったのは逃げたんじゃなくヤクザに拉致されてたとよ。」
と答える。真理子は考え込み、頷く。
(それで城田や神木まで集まっての話し合いか。)
(わざわざ危険を犯して会合した事の辻褄は合う、どこの組織と揉めてるのか?)
と思いを巡らす。銀三がテーブルの上を片づけ始める。真理子が手伝おうとすると手を振り断る。銀三が飲み干したビール缶やコンビニ袋等を台所に持っていく。そして、
「リュウが、アンタらが一番欲しい情報は何か聞いてたな。」
と思い出した様に伝える。真理子は、
「証拠になる様な物の隠し場所かな。」
「稼いだお金や売買記録、在庫のツープッシュとか。」
と考え話した後、
「でも時間が無い…」
とボソッと言葉が漏れる。銀三は聞き逃さず、
「時間が無いって?」
「どういう意味だ。」
と真理子の顔を見て話す。真理子は銀三を見返して、
「私の話はその事なの。」
と言うと銀三は真理子の前に胡座を描いて座る。真理子は捜査上の情報を漏らす事に躊躇いつつ、
「強制捜査が近いの。」
と話した。銀三は慌てた様に、
「あの喫茶店もか?」
と拠点の元喫茶店の方角に顎をしゃくり示す。真理子は俯き、
「ええ、そうなの…」
と答える。銀三は怒気を含んだ声で、
「約束が違うぞ、あの茶店やる時は俺が許してからと言ったよな!」
と怒鳴る。真理子は申し訳無さそうに頷き、
「ええ、覚えているわ。」
「強制捜査は上が決定して、どうにもならないわ。」
と答える。銀三は真理子を見据え、
「アンタ、保険取ったの忘れたのか?」
「アンタの見られたら破滅する写真などだ。」
「俺がバラまかないと高をくくっているのか?」
と思い出させる様に話す。その目は冷然と真理子を睨み付ける。真理子は銀三を見返し、
「覚えているわ。」
「銀三さんとの約束を軽く考えていない。」
「でも組織の決定には逆らえない。」
「それにあの喫茶店だけしない訳には行かない。」
「複数箇所同時に行う強制捜査だし、喫茶店だけ除外してもすぐに中の連中にも伝わるわ。」
と必死に諭す様に話す。銀三は真理子を睨み付けたまま、
「いつだ!」
と問い詰める。真理子は口ごもり中々話そうとしない。
「いつだ、話せ!」
「これだから、お前らは信用出来ないんだ!」
「真理子、約束破った上にいつか言わないなら喫茶店の前で強制捜査が有ると騒ぎ立てるぞ!」
と脅す。真理子は銀三を見て、
「絶対に他の人に言わないで、連中が逃亡する恐れが有るし部下達に危険が及ぶの。」
と懇願する。銀三は頷き、
「ああ、分かった。」
「誰にも言わん。」
「いつだ!」
と言う。真理子は迷いながらも、
「もう、日付では明日ね。」
と時計を見て答える。銀三は血相を変え、
「明日!」
「リュウ逃すのに間に合うのか?」
と大声で怒鳴る。真理子は、
「強制捜査と言っても誰かれ構わず撃ったりしないわ。」
「あくまで逮捕が目的なのよ。」
と落ち着かせる様に言う。銀三は目を細め、
「ヤクザと揉めている連中だぞ!」
「中の見張り役の半グレ共は、拳銃とか持ってんじゃねぇのか?」
「撃ち合いになって流れ弾に当たるかも知れねぇだろう!」
と問い詰める。真理子は銀三に言って聞かせる様に、
「その可能性は無くはない。」
「だけど情報提供者が中に居る時に行った方が良いのよ。」
「居ない時に強制捜査すると真っ先に疑われるの。」
「逮捕され服役、または釈放後も情報提供者は秘密にされる。裁判で証言しない限りは。」
「将来を含めて情報提供者を守るには一緒に逮捕するのが一番安全なのよ。」
と言うと銀三がその言葉にピクンと反応して真理子を見つめる。真理子は説得する様に、
「信用して、むやみやたらと撃ち殺す事は無いわ。」
「訓練された捜査官達が行うの、逮捕の為に。」
と重ねて言う。銀三は考えを巡らしていたが、
「確かに、アンタの言う事が正しい様だ。」
「踏み込んだ時に、今まで居たヤツが居なきゃ疑われる。」
と落ち着きを取り戻した様子で答える。
「じゃあ、今日リュウから連絡が有っても強制捜査の話はしない。」
「ヤツの事だ、いざとなったら裏切るかも知れん。」
「知らない方が自然に振る舞えるだろう。」
と話す。真理子は頷き、
「絶対に話さないで!」
「その方が銀三さんの守りたい人を守れる。」
と強調する。