馴染みの場所で-5
銀三は少し待って人の気配がしなくなるのを待って、
「大丈夫か？」
と真理子の口を塞いだ手を離しながら聞く。真理子は顔を赤らめ頷く。銀三はウエットティッシュを見せ、
「アンタの体の面側は大体拭いた。」
「立てるか？」
と聞く。真理子は頷きながら、
「どのくらい、寝てたの私？」
とややヨロけながら立つ。銀三が真理子の体を支えてやりながら、
「30分位だろう。」
と言い、ウエットティッシュの袋から数枚抜くと真理子に渡しながら話す。
「気になるトコ、拭きな。」
「背中側は俺が拭いてやる。」
と言い真理子が股間や胸等を拭いている間、銀三は真理子の背中や脚の裏側の汚れを拭いてやる。真理子から使用済みのウエットティッシュを受け入り自分が使った分と一緒にコンビニ袋に入れると上着に仕舞う。
銀三は袋と水のペットボトルを差し出す、真理子が袋の中を見るとショーツの新品と簡易の化粧セットが入っていた。真理子は水をごくごくペットボトルの半分位一気に飲むと着替えを始める。
その間銀三は、便器や床を流せるトイレ用シートで手早く拭いて掃除する。真理子は、着替えが終わるとスマホをチェックして特に急を要する連絡などは無いのを確認する。また水を飲みペットボトルが空になる。
銀三は拭き終わったシートを便器に放り水洗レバーを引き流すと消臭スプレー缶を取り出して個室の中に数度スプレーすると自分、真理子に軽くスプレーした。真理子は身なりを整えながら、
「もしかして、一旦外に出て買いに行ったの？」
と聞くと銀三は空のペットボトルを受け取りながら頷き、
「ああ、出口近くに何でも置いてあるドラッグストア有って助かったぜ。」
と笑う。真理子は財布を出そうとすると銀三は手を振り、
「要らないよ。」
「自分の女には、これ位させてくれ。」
とニヤリと笑う。真理子は先程の自分が口した言葉を覚えていた。銀三に行為を続けて欲しくて銀三の言うがままに口した言葉だ。真理子は顔を赤らめ黙り込む。銀三は笑い、
「女子トイレで化粧直して職場戻れば良いんじゃねぇか。」
「シャワー浴びれりゃ良いが。」
「この近くにゃ、コインシャワー無いだろう。」
と言うと真理子は、
「支部に有るのシャワー室。」
「帰ったら使うわ。」
と言う。銀三は頷くとドアを少し開け、周りの様子を伺い、
「俺が声を掛けてから出て来なよ。」
と言うなりドアを開けて個室の外に出るとドアを閉める。程なく、
「大丈夫だ、誰もいない。」
と銀三が声を掛けて来たので真理子は個室を出て男子トイレから廊下に出る。真理子が女子トイレに行こうとすると、
「俺は行く、眠い。」
「昼から夕方の録画分は夜渡す。」
「それとそのsdカード、コピーしたら返してくれ。」
と銀三は出口方向に廊下を進んで行く。真理子は慌てて、
「ありがとう。」
と礼を言う。銀三は僅かに頷いた様に見えた。真理子は、銀三の姿が見えなくなるまで見送ると女子トイレに入り銀三の買って来た化粧セットで軽く化粧すると女子トイレを出て、支部に近い出口に向かう。
真理子は支部に戻ると女子用のシャワー室に入り高めの温度で体中を念入りにシャワーして髪も洗う。髪を念入りに乾かすと課長室に戻る。
真理子は、早速sdカードを見てみる事にする。先ず外部の記録媒体を持ち込む際に専用のpcでウイルスなどのチェックをして問題無いの確認すると動画を早回しで見る。
10時前位から3人やって来て、拠点の元喫茶店に入って行く。少ない様に思えたが、中で寝泊まりしている者達もいると聞いていたのでこんなものかなと思った。
この3人も幹部では無いにしても半グレグループの正規メンバーだろうと思い静止画の写真をプリントする。それから出入りは無かったが11時前に訪問者が現れる。
静止画で拡大して確認すると長めの髪に浅黒の身長175cm位の男だ。引き締まった顔立ちのその男は、30代なかば位の年齢に見え高級なスーツと高そうな時計をしていた。
真理子はプリントボタンを押してその男の写真を撮る。
（幹部かも知れない、初めて見る顔だ。）
（やはり、私達が未だ把握して無かった幹部連中がいるんだわ。）
画面の男の顔を見ながら思案する。引きの映像に戻して再生を再開すると男の左手に大きめの革製と思われるバックを確認する。早送りすると15分位で再びその配達人の男は出でくる。
（ツープッシュの補充と売上の回収、簡単な連絡位かしら。）
と真理子は思いながら、静止画にすると再び男の写真をプリントアウトする。こちらの方が顔がはっきりと分かると思ったのだ。
録画は先程、12時過ぎ位までで終わっていた。配達人が帰った後は誰も拠点へ出入りしなかった。真理子は、ツープッシュを顧客に配達するのは午後だろうかと思いながら目を閉じ考える。
そして、課長室を出ると捜査課に入り待機組の捜査官達に自分の部屋に来る様に伝える。他に事務専門の職員と早めに出勤してきた捜査官達が数人いるが出来れば内密にしたかったのだ。