保険-10
真理子は更に驚き、
「じゃあ、その人が半グレの連中に提案したのかしら?拠点の場所。」
と聞くと銀三が苦虫を噛み潰した様に、
「ああ、連中は反対側の繁華街に近い方を予定していたそうだ。」
「それをあのバカタレが今の所が周りを警戒し易いし人通りも少ないから怪しまれ無いとか何かとか言ったんだと。」
「最初から知り合いと俺に頼る気だったのさ。」
と憤懣やる方無いと言った表情で話す。そして、
「連中は、かなり用心深く常に拠点の周りを警戒しているらしい。」
「監視カメラまで付けてるそうだ。」
と言いまた前を向く。真理子が、
「だから拠点、屋上から確認するの?」
と聞くと銀三は、
「俺と知り合いはそうした。」
「アンタは場所を確認して他の所から見張れば良いじゃねぇか。」
「その辺はプロだろ。」
と言いエレベーターを通り過ぎて横の階段に向かう。
「エレベーターは停止中で使えない。」
「屋上まで歩いて行く。」
と疲れた様に言う。真理子は俄然やる気になり、
「他に何か言って無かった?」
「半グレの連中の事?」
と銀三と並んで階段を登りながら聞く。銀三は、
「入口と裏口、窓とか頑丈に補強して、押入られない様にしてるらしい。」
「アンタらの手入れに備えて、流しやトイレの近くで作業してんだと。」
「すぐに流せる様に。」
「元が少し大き目の喫茶店らしい。」
「トイレや流しが多いから、それも拠点に選ばれた理由らしい。」
とイライラしながら話す。そして、上を見て登るのがうんざりした様に、
「見れば分かるが、周りに建物が余り無い。」
「人通りも少ないから近くに車停めて見張るのも目立つぞ。」
「釈迦に説法か、俺に言われるまでも無ぇな。」
と面白く無さそうに言う。真理子は先程までの怒りなどを忘れたかの様に熱心に頷いて聞いている。銀三はその様子を見て、
(へぇ、仕事の事となると人変わったみたいだな。)
(さっきまでは、マンコ好きのエロ女だったのによ。)
と驚いていたが口には出さずに、
「管理人室以外の鍵は持ってねぇ。」
「屋上から見たのは、鍵が掛かって無い上に連中に気付かれにくいと思ったからだ。」
と説明する。真理子が眉を寄せ、
(実際見て、何処で拠点を見張るか決めよう。)
と考え早くも拠点監視に向けて思案を巡らす。暫く2人は無言で階段を登っていくと最上階に着く。更に上の方への少し短めの階段が有り左側にドアが見えた。屋上への入口の様だ。
銀三がその短い階段を登りドアノブを回して向こう側に押していく。屋上は短い塀の上に1m位の金属製の柵が有り、それに囲まれていた。銀三はドアを開け、前に進んでいく。数メール歩くと、
「屈め。」
と真理子に言い、自分も屈んで進んで行く。どうやら正面が裏通りに面しているみたいだ。左右の側面の塀に沿ってエアコンの室外機が防風の柵に覆われて何台も置いて有る。
真理子も同じく屈んで進むと銀三が身を更に屈めて裏通りに面した塀の左端の角になった所ににじり寄る。室外機が有る為、上手い事身が隠せる様だ。近づいた真理子に余り大きく無い声で、
「道路挟んだ反対側の斜めの茶色外観の平家建てだ。」
「連中は時々外に出て周りを見回す、注意しろ。」
と銀三が話すと、自分は後ろに下がり場所を真理子に譲る。真理子は、室外機の端から少しだけ顔を出し斜め下を見る。拠点の場所は、すぐに分かった。
元喫茶店らしい外観だった、茶色の壁に喫茶店らしい日差しが上に付いている。正方形のまあまあの大きさの建物だ。その元喫茶店から見て正面と左側は砂利が敷いて有るだけの空き地みたいだ。
左側の空き地には数台車が止まっている。入り口のドアの上に監視カメラらしき物が見えた。真理子が、
「横の空き地の車、連中のかしら?」
とボソッと言うと銀三が、
「全部どうかは、分からんが軽の箱バンは連中のだ。」
「箱バンの男が拠点に入るのを見た。」
と答える。真理子が銀三を振り返り、
「時々見に来てるの?」
と聞くと銀三は、
「数回な。」
「適当な見張る場所見つけたか?」
と聞いて来る。真理子は腕を組み、
「少し写真を撮り、持ち帰って部下達と検討するわ。」
と考えながら話す。銀三が真理子を睨んで、
「俺は、アンタだけに拠点の場所を教えたつもりだ。」
「アンタが他の誰にも話さない様に保険の写真や動画を撮ったんだ。」
「アンタの部下達が知ったら意味無くなるだろ、保険の。」
「アンタが見張るのは良い、バレ無い様にな。」
「それで捜査に役立つ様にするのもアンタの勝手だ。」
「あの世間知らずの阿呆タレに危険が及ばない様にしてくれ。」
「だが、他の誰であれあの拠点を教えるのはルール違反だ。」
と言い放つ。真理子は焦り、
「私忙しいの。」
「毎日、見張っていられないわ。」
「部下達は、私の指示に従うから問題無い。」
と話す。銀三は首を振り、
「上司にも部下にも、ここの場所の事は話すな。」
「それこそ、俺が前に言った通りになるぞ。」
「部下達が知れば、他の者達にも伝わり強制捜査をやろうってなるさ。」
「とにかく、他の奴等に教えるな。」
「アンタ達が強制捜査をあの喫茶店で出来るのは俺が許可してからだ。」
と強い口調で話す。