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ヤクトリの女
【熟女/人妻 官能小説】

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囮捜査-1

「全員、次の駅で降りて。」
「支部には、私だけで戻るわ。」
「全員、帰宅して良いから。」

と右耳に固定したインカムのスイッチを押し囁く様に話すと、

「了解です。」
「分かりました。」

などと返事が返って来る。返事の声に疲れ以上に徒労感が感じられるのを聞いて、小田真理子は苦笑いした。

明日も遅番で終電まで、この地下鉄での痴漢の囮捜査が続く。慣れ無い捜査だと言うのも有るが、痴漢は捕まえても真理子達が追っている犯人グループでは無い。

真理子達の所属する薬物取締局が、新たな違法薬物、通称ツープッシュの流通を確認したのは半年前だった。名前の由来は、ミスト状で二回吹きかけて使われるからだと言う。

ツープッシュを吹きかけられ、口や鼻の粘膜から薬物が入り込むと、程なく体の運動機能を一時的に奪われて満足に手足を動かせなくなる。呼吸や視力、聴力は何とか維持出来るらしい。

人によっては、話したり何とか立ち歩く程度は出来るそうだ。だが、全身が凄まじく敏感になると言う。被害者は女性の場合が多いのだが、舌、乳房、女性器は特に多少の刺激でも激しい快感をもたらすと言う。

この薬物は、クラブなどの盛り場で女性達にレイプドラッグとして使われ多数の被害者が出た。性犯罪は被害者が訴えにくいものだが、それ以上に激しい快感をもたらす為、加害者が合意の行為だと被害者を説き伏せたケースも多かったので被害が拡大したのだ。

真理子達のチームが暴力団指定の半グレグループが一手に扱っている事を突き止め、執念の内偵捜査で三ヶ月前にアジトとメンバーを摘発した。

だがその二ヶ月後に薬物を使ったと見られる複数の電車での痴漢犯罪が確認される。痴漢被害者達の体内からツープッシュが検出されたのだ。今現在も、痴漢行為以外ではツープッシュが使われたとの情報は無い。

その為、真理子達のチームも警察の管轄部署の許可を得て痴漢の囮捜査を行っているのだった。管轄部署の鉄道公安課は、当初他所の捜査機関の介入に反対していた。

だが、事は違法薬物の摘発で有り慢性的な人手不足で当該の痴漢グループのみを対象とした捜査チームを組む事も出来ず、上層部の話し合いの末渋々、真理子達薬物取締局、ヤクトリの捜査を認めたのであった。

ヤクトリは、増える一方の麻薬や違法薬物の流入を阻止する為空港や港湾を管轄する官庁に30年前に設立された新しい捜査機関である。設立当初、既存の薬物を摘発する警察や他の官庁の反応は冷ややかで余り協力は得られなかったらしい。

その為か、海外に捜査官を研修に出して訓練したと言う。欧米の薬物捜査先進国の捜査方法を参考にして今に至る。現在でも設立当初程多くは無いが海外研修は続いていた。

それもあって、海外の捜査機関とも頻繁に情報交換して薬物の摘発に一役買っていた。数多くの麻薬や違法薬物の摘発で既存の薬物捜査機関に引けを取らない成果を出し、ヤクトリの名は世間に轟いていた。

数十人規模で、始まったヤクトリも今では数千人の人員の全国組織になった。真理子の所属する首都の支部が最大で、扱う件数も多い。

真理子は、大学卒業後に入庁した生え抜きで、英語も堪能で海外に研修経験も有り数々の違法薬物の摘発を手掛けて来た優秀な捜査官である。38歳の今では、部下30名を束ねる女性で唯一人の課長であり、実績から最年少部長も間近ではと言われていた。

仕事で知り合った検事の夫との間に一男一女をもうけたが、二回の産休のハンデキャップも物ともせず、同期で1番の出世だった。

真理子は最寄り駅から地上に出るとタクシーを捕まえて支部に向かった。タクシーの後部座席に155cmの身長で肉付きの良い身体を深々と沈め、頭を座席に付けるとフゥーと息を吐き、目を閉じた。

(子供達はもう寝たかしら。)
(ゲームしてるかも。)

と子供達の事が頭に浮かんで来る。夫も仕事が忙しいので子供達だけにして置けないと夫の母親が子供達の食事などの世話をしてくれていた。真理子は、それが申し訳なく義母に会う度に謝るのだった。夫は気楽に、

「お袋は、子供達と居られるのが嬉しいんだよ。」
「そんなに気にする事は無いって。」

と言うが真理子は、とてもそんな風に思えなかった。だが、仕事は辞める気は無い。真理子にとって仕事は生き甲斐だった。入庁してから立てた目標の部長までもう少しだ。

入庁したての頃は、体育会系で無い真理子にとって捜査官候補生訓練はハードで心折れそうになった。何とか捜査官に成れたものの、海外研修は、逃げ出したくなる程の凄惨な現場の連続だった。

候補生訓練や海外研修で同期が何人も脱落して行く中、真理子が何とか耐えられたのは仲の良かった従姉妹の存在だった。美人で明るかった従姉妹は、大学で悪い男友達に麻薬を打たれて中毒になった。

ヤクトリの捜査官に発見された時には、一命を取り留めたがかつての面影は無く痩せ細り、最初見た時は分からない程だった。その後は何とか立ち直ったが薬物依存のカウンセラーを今でも受けていた。

その従姉妹の事が有り、ヤクトリに入ろうと決意したのだ。従姉妹に付き添ってくれたヤクトリの女性捜査官に好感を持ち、憧れた事も大きかった。



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