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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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はるかぜ公園の涙・家飲み-1


 体内のすべての血液が頭に集まるような感覚があった。
 いつかはしのちゃんの母親にも会わなくちゃいけない。いつかはどこかでばったり会うかもしれない。心の準備と覚悟があったはずなのに、どう立ち回ったらいいかわからなくなっている。
 中腰に立ち上がりかけたままの俺に向かって、しのちゃんの母親が硬い表情のまま続ける。

「しのから、今日ここで会うと聞きました。私が問い質したんです、このところ、私が不在の間の外出が多くなっている様子だったので……」

「は、はぁ……」

 なにか言わなくちゃいけない。でも、何を言えばいいのか頭が回らない。やっとの思いで絞り出した言葉は、返事としてもあまり意味のない、息継ぎのような一言だけだった。
 しのちゃんの母親はぐるっと振り向いて、対面の木陰にある、木造のテーブルを挟んで四人くらいが座れるようになっているベンチを指さした。

「あそこで話しませんか」

 そう言って、さっきからずっと母親の後ろで半身を隠すように立っているしのちゃんに、スキニーデニムのポケットからスマートフォンを取り出して渡した。

「しの、あそこの自動販売機で、ジュースとか三本買ってきて」

 スマートフォンを受け取ったしのちゃんが、おずおず、といった感じで自動販売機に向かって歩き出す。俺の横を通り過ぎるときにちらっと俺の顔を見上げて、きまり悪そうな笑顔を見せた。俺は、ぎこちなく不十分に笑い返すのがやっとだ。
 トウカエデの葉が数枚落ちているテーブルを挟んで腰掛けると、しのちゃんの母親は少しだけ硬い表情を崩した。

「しのが、お世話になっています。ありがとうございます」

「あ、いえ……」

「学校の宿題とか、もともとそんなに熱心にやる子じゃなかったんですが、夏休みに入ってから毎日ちょっとずつ、ちゃんと夏休みの宿題をやっているんです。昨日、話をいろいろ聞いたんですけれど、『お兄ちゃんが勉強教えてくれてから算数が楽しい』って」

「……そう、ですか……」

「そのことは、本当にありがたく思っています。私が勉強、全然見てやれていないので……」

 しのちゃんの母親が小さくため息をついた。
 俺の頭に上った血流がすこしずつ下へ降りていく。うつむいていた顔を少しだけ上げると、自動販売機の前で思案しているしのちゃんを眺める横顔が目に入った。
 もう少し短くなればショートと言えそうなボブの黒髪。丸みを帯びた輪郭の小顔。目元がしのちゃんに似ているような気がする。ふっくらとした唇が、目線はしのちゃんを向きながらゆっくりと開く。

「……正直、驚きました。しのはあなたのことを『こいびと』だと言っています」

 顔が、俺の方を向いた。いくぶん和らぎかけた表情がさっきの硬いそれに戻っている。

「ここやミラモールでデートしたり、あなたのお家にお邪魔したりしてるそうですね」

 口調は決して非難がましくない。むしろ淡々としている。それが余計に、不安を募らせる。
 しのちゃんの母親の目が俺を見据える。睨んではいない、でも当然ながら笑ってもいない。

「あなたから直接伺いたいんです。あなたがどんな人で、しのと普段どんなことをしているか、そして」

 一息ついて続ける。

「あなたが、しののことをどういうふうに見ているのか、を」

 しのちゃんがペットボトルを三本抱えてきた。母親の横にちょこんと座り、自分の前にQooのりんご味を、母親の前に爽健美茶を、そして俺の前にジョージアのロータスリーブラックを置いた。しのちゃん、俺の好きな銘柄覚えてくれている。でも、それを喜んだり、ありがとうと言ったりする余裕は俺にはない。あ、さっきまで飲んでた香るブラックの空き缶どうしたんだっけ。
 俺は、すぅぅっと息を吸い込み、母親からちょっとだけ目を逸した。

「はい、あの……あ、名前は……」


 気がつくと、しのちゃんはさっきまで俺が座っていたベンチに向かって歩いて行って、ベンチの上に俺が置き去りにした香るブラックの空き缶を拾い上げている。赤い自販機の隣にゴミ箱があるから、そこへ捨てに行ってくれているようだ。
 俺は、つっかえつっかえになりながら、しのちゃんの母親にほとんどのことを話した。自分の名前、年齢、仕事内容、しのちゃんとの出逢い―朝の通学路で歌を歌いながら登校している姿がかわいくて声をかけた―、はるかぜ公園やショッピングモールでのデートのこと、俺のアパートに来て一緒に宿題やったりしたこと。
 ただ、公園のトイレでのことや、しのちゃんがくれたお守り、キス、それに宿題の「ごほうび」のことは、さすがに口に出せなかった。

「……しのちゃんのことは、あの……なんて言うか、すごく年下の友達、いや、正直に言えばかわいい女の子としても見てます……でも、あの、気持ちとしては、見守っているというか、そばにいてあげたいというか、その……」

 表情をほとんど変えず時折小さくうなずきながら俺の話を聞いていたしのちゃんの母親は、また小さくため息をついた。

「……わかりました」

 俺は思わず目を閉じた。審判の時が訪れたような気がした。
 空き缶をゴミ箱に入れたしのちゃんが戻ってくる。母親は、そのしのちゃんの両手を自分の両手で握り、しのちゃんに顔を近づけるようにして穏やかな声で言った。

「しの、この人と、もう会えなくなってもいい?」


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