扉の奥には。-1
「はぁ…はぁ……!!いっ…ぁ…」
智樹君は時折声を漏らしながら、ひたすらしごくのをやめなかった。
あの優等生で真面目な智樹君が。従順で、性とは無縁そうな男子が。何かに取り憑かれたようにその手を動かす姿に、私は目が離せなかった。
この扉の向こうで、一人の男子が自慰行為にふけってる。
その事実に私はよくわからないゾクゾクが止まらなかった。全身が疼くような感覚。熱くなる。汗が流れ始める。
もっと見たい。もっと。もっと。もっと彼が壊れていく表情が見たい。さらに、深く、ゾクゾクが止まらない。
扉に手をかけようとして、止める。それを何度か繰り返していた。
今ここでこの扉を開けてしまったら、智樹君と私の関係は確実に今まで通りではいられない。見て見ぬふりをして、ここから立ち去るべきだ。
『見たい』
智樹君だって、中学2年生の男の子。思春期で、そういう事に興味がある時期だし、何もおかしい事じゃ無い。むしろ覗きのようなことをしてる私が悪い。だから……見なかった事にしよう
『見たい。もっと。もっと。』
身体が震える。自分で、自分の手を抑えている。私は、今、何をしようとしてる??この扉を開けて、間近で見ようとしている??なぜ??
自分でも理由がわからない。身体の奥底にある何かが、何度も何度も囁くように誘惑される。
『開けろ。もっと見るために』
だめ。そんなことはしてはいけない。私は彼の家庭教師。それだけ、それだけの関係。プライベートには深く踏み込んではいけない。
「あぁぁ……はぁ…はぁぁぁ……」
智樹君は何かを見てしている様子は無い。思春期の男子中学生なら、妄想で十分なのだろう。何を考えているのかはわからないけど、きっと、いやらしい何か。
『もし、私がその妄想の対象だったら?』
一瞬、頭が真っ白になる。だめ。やめて。やってはだめ。何度も、何度も心の中で唱える。汗ばむ手を必死に握る。一度、大きく深呼吸をする
扉の奥の智樹君は、見られているとも知らずに何度も何度も何かを押さえつけるように必死にしごくのを続けている。いつも真面目な彼が、あんなに間抜けそうな顔で、快楽に取り憑かれて、しごいている。
彼の間抜けな顔を見て、私の中で何かが弾けてしまった。がんじがらめの鎖が引きちぎれるように、いや、自分でその鎖を引きちぎるようにして、私は目の前の扉をゆっくりと開けた。
『智樹君。何してるの?』
絶対に開けてはならなかった、その扉を。