ごほうび-2
懇願するような口調になった。
「えー、ちゃんと、って、なにそれー」
しのちゃんの口調は無邪気だ。だけど、その無邪気さの中に、俺のどうしようもない欲望を許容してくれそうな余裕を感じたのは、ペドフィリアの身勝手さだろうか。
「うん、あの……おちんちん、出すから……」
「きゃー」
しのちゃんが俺の腹をグーでぽかぽかと叩く。その顔は、怒ってはいない、ように見える。
俺はワイドパンツの裾を両手でつかみ、尻を軽く上げてトランクスごと一気に膝まで下ろした。完全に勃起し、包皮が剥けて亀頭が露出したおちんちんが、ぴん、としのちゃんの前に曝け出される。
「わぁ、やっぱりおっきくなってる……お兄ちゃん、こーふんしちゃったんだ」
「うん……」
しのちゃん、なんで知ってるんだろう。勃起のメカニズム。
「しのちゃんもエッチじゃん、興奮したらおっきくなるって知ってる」
「だってー、お兄ちゃんに教わったんだもん」
「……え?そうだっけ」
「そうだよー、はるかぜ公園のトイレで、あたしにおちんちん見られたらこーふんしておっきくなっちゃった、って言ってたじゃん」
そういえばそんなこと言ったな。俺、結構無意識のうちに、しのちゃんに性教育してるんだな。
「あ、そしたらさ、しのちゃん……」
「うん」
「……おちんちん、手で握ってみて」
「うー、どうしようかなぁ」
しのちゃんがあごに右手を当てて、わざとらしい「考え中」のポーズをする。こういうしぐさのひとつひとつがたまらなく愛らしい。その愛らしさに加えて、キュロットスカートの裾からかすかに覗く黄色っぽい色のパンツや、夏の薄着で多めに露出したしのちゃんの肌のような、性欲を刺激する視覚情報が俺の中枢神経を強く刺激する。反り返るくらいに勃起しきったおちんちんは、エアコンの風が当たっただけでも射精してしまいそうなほど暴発寸前だ。
「あ、もし、いやだったら無理には……」
「ううん、あのね」
しのちゃんが俺の隣にぺたん、とうつぶせで寝転がる。上半身をずずっ、と俺に寄せて、しのちゃんのほうを向いた俺の顔のそばに自分の顔を寄せる。にひっ、と笑うしのちゃんの口から漏れる、いつもよりも温度が高く、いつもと違ってねっとりと湿っている吐息の息臭が鼻腔に満ちる。アイボリーホワイトの前歯を濡らす唾液が混じりこんだような濡れた息で、しのちゃんがささやくように言う。
「お兄ちゃんに、はだかんぼでぎゅっ、されたいな」
一瞬で下半身に衝撃が走る。俺の顔のほうに斜め45度くらいの角度をつけて勃起している、微細な刺激にすら耐えられなくなっていたおちんちんの尿道口から、あらゆる煩悩や性欲が凝縮されて濃縮されしかも十分に熟成されたようなねっとりとした精液がびゅっ、びゅっと噴出して、Tシャツの腹の上に飛び散った。出る、やばい、そう感じてから0.5秒と経っていなかったんじゃないだろうか。しのちゃんに射精を見せるのはまだ早い、そう判断したとしても脊髄中枢を抑えるには時間がなさすぎた。
射精の瞬間に無意識にうぅっ、と小さくうめいた俺を怪訝そうな表情で見たしのちゃんは、射精に合わせて上下に動く俺の尻のほうに目線をやった。そこでは俺のおちんちんが、先端の尿道口から小刻みに射精している。
「きゃ、え、なに……なにこれお兄ちゃん!」
ばっ、と身体を起こしたしのちゃんがベッドから飛び降りる。その目は、上下にせわしなく揺れながら射精する亀頭部分を凝視している。濃ゆい精液から匂い立つスペルミンの分解臭としのちゃんの体臭や息臭とが混じり合って俺の鼻に届くという非日常性が、夢精でもあるまいししかも「こいびと」の目の前でノータッチで射精するという情けなさや恥ずかしさを打ち消す。精子と精漿の混合液をあらかた射精しきっても勃起が収まらないおちんちんをしのちゃんに至近距離から見られているというこのシチュエーション。たぶん俺の26年間の人生で童貞喪失以上に記念すべき状況だ。
「……ねぇ、これ、なに?……おしっこ?」
教科書に載せてもよさそうなほどの模範的な「怪訝そうな」顔をしたしのちゃんが、おそるおそる、といった感じの口調でつぶやく。8歳のしのちゃんにとって間違いなく生まれて初めて見る射精。まぁ、父親や男兄弟のいない家庭だから、おちんちんから何かが出てくるシーン自体生活の中で見ることはないはずだし、俺もさすがに放尿までは見せたことはない。そういやおちんちん自体、パパのを昔ちょっとだけ見たことがある程度だって言ってたしな。
「あ、これは……その……」
さあ、なんて説明しよう。しのちゃんのボキャブラリーに「精液」を加えるのはちょっとまずいな。どこでぽろっと口にしちゃうかわからんし、それを母親や担任が聞いたりしたらふつうの小学2年生の女児が知っている単語じゃないから違和感マックスだ。「おちんちん」あたりとは次元が違う。さりとて射精を瞬間は見ちゃったわけだから、変にごまかすのもかえっておかしい。
「ええと、おしっこではなくって、その……大好きな人に気持ちよくしてもらうと出ちゃうもの、なんだ」
「えー、そうなんだー」
「うん、そのう、興奮して、気持ちよくなったら、おしっことは別のところから出てくるんだよ」
「ふぅん、おもしろーい。じゃあ、学校の男子も出てるのかなぁこういうの」
「あ、いや、これは大人になってから……まあ、もっと大きくなってから出るようになるものだから、学校の男子は、まだ出な」
「へー、大人だけ?男の人だけ?」
しのちゃんが食い気味になる。いつのまにかベッドに上がり直して前屈するように座り、まだ収まらない勃起とTシャツの上に飛び散ったアメーバのような白濁液を見ている。