算数の宿題-5
「九九って、そういうふうに計算してもいいんだったんだ」
俺の耳元でそう言うしのちゃんの、やっぱりチョコレートの香りが混じった息が耳にかかる。どさくさにまぎれてしのちゃんの身体をもう少し俺の身体に押し付けるようにする。両足を俺の太腿の外側に垂らしたしのちゃんのキュロットスカートの股間と俺のそれが互いの衣類越しにぴとっとくっつく。
「そうだよ、丸暗記しちゃったほうがいいんだけど、暗記し切る前で答えがわからないときや自信がないときは、こうやって計算してもオッケーなんだ」
「お兄ちゃんすごーい、先生みたい」
いやいや、大人ならだいたいこのくらいわかるよ。
ただ、しのちゃんは学校で教わることでわからないことがあったときに、それを質問したりして解消する機会が少ないんだろう、とは見当がついた。母親は仕事で忙しくて勉強を見てあげる時間が取りにくいだろうし。それに相変わらず教室には馴染みきっていない様子なので、もしかするとしのちゃんに対する担任のケアも足りていないのかもしれない。
そうなると俺がしのちゃんの勉強の面倒を見るのがいいのかな。幸い低学年のカリキュラムならなんとかなるし、あんまり難しい内容がでてきたら現役大学生の麻衣ちゃんに教えを請うか。あ、でも、「なんで小学生の算数を?」とか聞かれたらどうしよう。
まあとりあえず、しのちゃんの勉強の面倒をちゃんと見なきゃ。俺はしのちゃんの軽い身体を―どさくさでぺったんこの胸のあたりに手を添えて―抱き上げ、ゲーミングチェアに座り直させた。
「よーし、じゃあしのちゃん、宿題がんばろう!」
「うん!……でも、お兄ちゃん」
「ん?なんだい?」
「……もうちょっと、お菓子食べたい」
しのちゃんの目線は、ビニール袋の中のグミに釘付けになっている。どうしようか、あんまり食べさせすぎても夕食に差し支えたりするんじゃないか。
「うーん、そしたら、宿題終わったら食べよう」
問題の先送りってやつだ。
「えー」
しのちゃんが「え」と開いた口の形のままで俺を軽く睨む。俺はふざけたふりをして、そのしのちゃんの口を右の手のひらで軽く塞いだ。
「むー」
しのちゃんが抗議の声を上げる。よしよし、しのちゃんの開いた口にかぶせた俺の手のひらに、しのちゃんの温かな息と唾液がダイレクトにかかる。
「はい、まずは、足し算のドリル」
しのちゃんの口から離した手でドリルを開き、ペンケースの中の鉛筆を一本取ってしのちゃんに渡す。ちょっと不満げな顔のしのちゃんがドリルに集中しだしたのを確かめて、俺は右の手のひらの匂いをそっと嗅いだ。もうチョコレートの香りはほとんど残っていない、しのちゃんのいつもの息と唾液の匂い。しのちゃんがいつも嗅がせてくれる幼女の息臭や唾液臭。そして、しのちゃんとキスしたときと同じ匂い。勃起がゆっくりと始まっていく。
「ねぇお兄ちゃん、ここのくりあがりって……」
しのちゃんがドリルを鉛筆の先端で指しながらこっちを見る。はいはいそうでした、今俺は勉強を見ているんだ、勃起してる場合じゃねぇ。
計算や図形を教えていると、しのちゃんの理解度がだんだん見えてきた。覚えていることは間違えることなくできるけれど、覚えていることといないこととの乖離が大きいのでちょっとした応用ができない。さっきの九九もそうだけれど、覚えていなかったり間違って覚えていたりすることを周囲にチェックしてもらえてこなかったんじゃないかと思う。
だからしのちゃんは、少なくとも算数に関しては復習の時間をきちんと取って理解度を定期的にチェックしてフォローしてあげれば、乖離を埋めることができ算数の成績も上がるんじゃないだろうか、と偉そうに思っている俺は、さっきしのちゃんの口の匂いを嗅いで勃起しかけた俺との乖離が大きいんじゃねぇのか、たいがい。