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愛欲の日々 -心と身体-
【熟女/人妻 官能小説】

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智司(一.)-1

 久藤智司は生まれつきあまり身体が丈夫なほうではなかった。
 幼少のころから頻繁に病気を繰り返し、喘息や肺炎、盲腸などで入院することも少なくなかった。
 その度に両親は気を揉み、どうか病気をしない健康な大人に成長しますようにと、御利益があるときく神社仏閣をめぐってしきりに祈願したという。するとそんな両親の願いが届いたのか、智司は小学校に上がるころには病を患うことも少なくなり、健康的な少年に成長していった。
 智司には四つ年上の姉が一人いる。名前は明日香といい、これは智司とは対照的に幼いころからほとんど病気をしたことのないやんちゃな男勝りで、よく近所の公園で遊びまわっては、遊具を取り合って複数の男の子とケンカをして戦勝をあげるという暴れん坊少女として名を馳せていた。
 父の史明は広告会社に勤める一般的な会社員だった。仕事はできるほうで社内の評判も高く、若くして管理職を任せられるようになり、順調に出世していったのはよいものの、それにつれて業務量も増え、必然残業も多くなり、帰宅するのはいつも深夜近くである。ただそれでも休日などには家族をつれて買い物に行ったり、たまには遊園地や水族館などにもつれていってくれるという良心的な父親であった。
 母の聡美は夫の五つ年下で、結婚をする前は同じ広告会社に勤める同僚で史明の元部下だった。ある仕事をきっかけに二人の距離は縮まり、入籍すると同時に母は会社を退職して専業主婦になった。そして二人の子宝にめぐまれると、家庭のことにかかりっきりになり、とくに病弱だった長男の智司には手が掛ったため、並々ならぬ愛情をそそぐようになっていた。だから智司が無事成長し、小学校に入学したときには、うれしさのあまりはらはらと涙をこぼしたほどであった。
 そして時は流れ、智司は中学校に上がり、姉の明日香は高校生に、史明は部長にまで昇進し、現在四十七歳、聡美は四十二歳になっていた。傍から見れば、これといった問題も抱えていない、ごく普通の家庭である。


 平日の早朝、いつもリビングのテーブルで家族四人そろって朝食を食べるのが昔からの習慣になっていた。
 しかし、姉の明日香がなかなか二階の自分の部屋から出てこない。家族全員がそろったのは、それから十五分ほど経ったころだった。
「また夜遅くまでスマートフォンをいじっていたんでしょう?」
 母の小言がはじまった。これも昔からつづく朝の習慣である。
「うるさいな」
 姉の態度はこのところ妙に冷淡だった。
 高校に上がってからは交友関係もひろがり、部活動の帰りに遊びに行くことも多くなり、帰りはいつも夜更けの刻限になっていた。母が定めた門限は夜の八時だったが、姉がそれを守ったことはほとんどない。父も自分の帰りが遅いため、あまり強く非難はできないのか、一言二言注意はするものの、なしのつぶてだった。「あいつも反抗期か」とだけ言って見過ごしていたのである。
 それでも、母はやはり娘のことを心配しているようで、口うるさく忠言をするたび姉に反抗され、二人の溝は深まるばかりになっていた。
「今日も陸上部の練習遅くなるの?」と聡美が智司に話しかけた。
 智司は中学校に入学してから陸上部に所属していた。毎日夕方、日が沈むころまで練習していたが、父や姉ほど帰宅が遅くなることはなかった。
「うん、もうすぐ地区大会だからね」
「お母さんも応援に行こうか?」
「いいよ来なくて、はずかしいから」
 本心ではないが、ちょうど思春期の智司にとって、他人から見られる親の姿というのはやはり気になるのだ。
「いいじゃない、今週の土曜日でしょう? あなたも仕事が休みなら、いっしょに行きましょうよ」
 これに対し、父は表情ひとつ変えず、朝食を口に運ぶことに集中しながら、「うん、そうだな」とぽつり言っただけである。
 朝食が終わると姉がいちばん先に家を出て、つぎに父、そして最後に智司の順番でそれぞれ外出をした。
「大会、ほんとうに来なくていいよ。母さんの声大きいから、みんなに聞こえてはずかしいんだ」
 母は笑いながら玄関まで息子を見送りに出た。
「はいはい、気をつけて行くのよ」
「いってきます」
 そう言って智司はいつものように玄関のドアを閉めた。


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