純粋な願い-3
放送されたテレビ番組を切り抜き、動画サイトに載せるのはよくある事。
ましてや昨今の報道番組はバラエティー番組とごっちゃ≠ノなっているものが多く、鈴木が検索するサイトにも多数の切り抜き動画が載せられていた。
『……クククッ!見つけたぞ…ッ』
鈴木のスマホには、先程の彼女の姿が映し出されていた。
どうやらコアなファンがついている報道記者なようで、その動画のタイトルには
[ふうかチャンの報道記録D]
と記されていた。
{新庄さんは仕事も真面目で、かなりの努力家だと……}
明日香と涼花の事件だけではなかった。
由芽の失踪事件の時も、あのアパートの最寄りの駅から報道し、拉致現場の特定に繋がる情報提供を訴えていた。
{池野さんはどちらが近道か≠ニ友人と話し合いになったそうで、それでこの路地裏へと一人で入ったそうです。ここは周囲からの死角が多く……}
『池野?誰だ、池野って?』
『やだなあ。ボク達にプレゼントしてくれた
女子高生じゃないですか。黒髪でショートカットの……忘れちゃいましたあ?』
いちいち覚えてはいないのだろう。
カメラに収めてDVDに焼き付ければ、あとは用は済んだと言える。
それにしても無惨にも人生を奪われたというのに、その加害者の記憶にも残っていないとは報われないにも程がある。
『ああ、やっと出てきた。彼女の名前は古芝風花だとよお』
確かに《仕事》なのだから、名前をテロップで貼り付けてもおかしくはないだろう。
しかし、この古芝風花という記者は、拉致の可能性が極めて高い失踪事件の報道をしているのだ。
犯罪者が狙い≠烽オない不細工ならば、それ程の問題にもならないだろうが、風花は男共全員を一目惚れにさせるくらいの美女なのだ。
いや、看板女子アナもスタジオからあらゆる犯罪の報道をする。
危険性は同じと言えば同じかもしれない。
しかし、風花は《目撃》された。
被害者の安否を気遣い、「犯罪者許すまじ」との思いをひしひしと滲ませる。
これがスタジオからならば、彼女はテレビの中の人として認識される。
だが、風花は現場に赴き、生身の人間として見つけられた。
〈身近な人間〉と思われてしまったなら、そこに精神的な垣根は無くなる。
同じ《報道》を行った女子アナを拉致するのを諦めた鈴木達……しかし、風花ならば……。
この違いは絶望的だ……。
『……ん?また出てきたぞ?』
夕方に差し掛かると、また風花は先程と同じスタッフと一緒にミニバンに乗って出掛けた。
このターゲットをつけ狙う″s為は実に楽しく、こちらの存在に気づかぬ《彼女》の、その無警戒さが堪らなく愛しく、そして欲情を孕んだ苛立ちを覚える。
そのミニバンは、二つ向こうの駅前に止まった。
そこは池野夏美を拉致した路地裏の近くの駅で、つまりは夏美が通っていた高校の最寄りの駅だ。
既に数人の女子高生達が並んでおり、行き交う人達に必死にビラを配っていた。
半袖の白いYシャツに、青灰色と白のチェック柄のスカート。
あの地味な制服は夏美が着てたのと同じだ……。
「どんな情報でも構いません」
「情報提供を宜しくお願いします」
失踪したままの夏美の捜索に少しでも協力しようと、その女子高生達は頑張っていた。
普通ならば胸が傷む光景ではあるが、男共が一様に思った事といえば、その中に美少女が居るかどうかという事だけだった。
『……左から二番目……アイツなんか好くねえか?』
『あの黒髪ストレートのキツネちゃんか?ちょっとだけかずさ≠ノ似てるなあ』