幼茎の尿臭 〜聖美13歳・知季10歳〜-2
『君に届け』にハマって泣いた、聖美と紬はそんな話で水曜日の昼休みに話が盛り上がり、聖美がたまたま叔父から借りていたライブDVDを又貸しする約束をしていた。
「あー、うん、いいよー。今日ちょうど親いないし」
ママって今日パートだったっけ。一瞬確認してから、聖美は紬に答えた。ママがいちゃまずいことはないけれども、友達が家に来たくらいでお菓子だお茶だと世話を焼かれるのはちょっと煩わしい。
「ね、ライブDVDってさ、結構高いじゃん。お年玉で買ったの?」
並んで校門を出ながら紬が聞く。
「ううん、叔父さんから正月に借りてきたやつ」
「え、じゃあ、あたしが借りたりしたら悪いんじゃない?」
「大丈夫だよ、ちょっと遅れるくらいならぜんぜん平気」
ぜんぜん、と言いながら聖美は左右にぶんぶん、と首を振った。聖美の短めのポニーテールが揺れて、髪の先端がブレザーの襟と首筋を撫でる。
聖美の父親の弟は独身で、聖美と知季が小さい頃からかわいがってくれていて、二人には結構、特に聖美には甘い。独り者で子供がいないから、というのもあるが実はロリコンだからなんじゃ、と聖美はにらんでいる。正月や盆に会うとやたら聖美の身体に触ってくるし(知季にも触るけど)、やだって言ってるのに一緒にお風呂に入りたがるし(知季とは入ってるみたいだけれど)。
下校時にコンビニなどに立ち寄るのは校則で禁止されている。聖美と紬は、通学路から一歩入った路地に立つ自販機でそれぞれ午後ティーミルクとココアを買い、ペットボトルを互いの頬に当てっこして「まだ寒いねー」とか言ったりしながら聖美の家に入った。
「あれ、弟帰ってきてる」
「え、聖美弟いたんだ」
「うん小3の。なんだあいつ、イナズマイレブンやりに行ってるんじゃなかったのかよ」
聖美は、玄関に揃えられたグレーのスニーカーを左足でよけて紬が靴を脱ぐスペースを作った。いつもなら土曜日の放課後は近所の男の子たちと町立公園でイナズマイレブン大会に興じているはずだ。先週も白竜のカードをゲットしたとかなんとか言って自慢気に見せてきたっけ。
紬と一緒に二階に上がると、聖美の寝室の向かいにある知季の寝室のドアが開いていて、知季がベッドに寝転んで「たくさんのふしぎ」を読んでいる姿が見えた。
「ただいまー。知季いたの?」
「あ、ねぇねおかえり。うん、コーヘイくんとタツキくん風邪引いてこれないから、今日はなし」
雑誌から顔を上げてそう言った知季は、聖美の背後に目線をやってこくん、と首をかしげた。
「あぁ、そうそう、ねぇね友達連れてきたから。同級生の紬。紬、こいつが弟の知季……どうしたの紬?」
紬を知季に紹介しようとして振り向いた聖美が怪訝な顔になる。紬はちいさく口を開いたまま、ベッドの上の知季を見つめていた。
「……聖美の弟、かわいい……」
ささやくような声で言った紬は、いきなり聖美の肩をぎゅっと掴んではしゃぎ声をあげた。
「ちょ、なによ聖美、めっちゃかわいいじゃんおとうとー!女の子みたいーっ。なになに、なんで黙ってたのよ、ね、名前は?学年は?」
「だから、名前は知季で、学年は小3」
テンションの上がった紬に気圧されながら聖美が後ずさりすると、紬は開いたドアから知季の寝室にたたっ、と入り、知季のそばの床に置いてあるマリンブルーのラグの上にぺたん、と腰を下ろした。
「知季くんこんにちはー、あたし紬。お姉ちゃんの同級生、親友親友」
いや親友だったっけ、まだ普通の友達のつもりだけどあたしは。
聖美はハイテンションになった紬をぽかんと眺めながら思った。確かに明るくて話しやすいし音楽の趣味も合うけれど、ちょっとオタクっぽいところがあって(学芸部ってなんだよ)そこがやや苦手だと感じている。正直、聖美よりも顔はかわいい(一学期に聖美と同じテニス部の3年生から、二学期に隣のクラスのサッカー部員から告られたらしい。どういうわけかごめんなさいしたらしいけど)し、体重が気になる(156センチ49キロ。50キロの壁を超えたら終わりだと思いこんでいる。無駄に成長してきた胸もうっとうしい)聖美に有意義なダイエット法も教えてくれる。けど、実際オタクなのか、どんなオタク趣味があるか、はまだ教えてくれていない。
「は、はい、こんにちは……あの、聖美の弟の知季です」
知季がばっ、とベッドの上に起き上がって、かしこまった顔になる。
「やー、もー、知季くん真面目っぽーい、かわいーっ。ね、変なことしないから、知季くんの頭ナデナデしていい?」
知季の緊張した顔に自分の顔を近づけて紬が言う。にっこりと笑う紬の口元から、きれいに生え揃った永久歯の白い歯列が覗く。ああいうのも男子の好感度上げるんだよな、あたしも矯正したほうがいいのかな。聖美は八重歯を舌の先端で舐めながら思った。
「え、あの……」
「だいじょーぶだいじょーぶ、あたしずっと弟がほしくってさー、知季くん、あたしの理想の弟像にぴったり」
そう言って紬は知季の頭を右手でなでた。前を眉のやや下まで伸ばして横とだいたい同じ長さで揃えた、半分に割った卵の殻のような形に切った知季の髪が紬の掌でわしゃわしゃされる。知季は固まってしまってされるがままだ。
「ちょ、なにやってんのよ紬。知季引いてるじゃん」
「あはは、ごめんごめん。だってこんなにかわいいから、ついつい」
知季の頭から手を離した紬は悪びれた様子もなく言った。こいつのこんなテンション見たことないな、ていうか知季のなにがそんなにかわいいんだか……かわいい。どういう意味で言ってるんだろう紬。