お兄ちゃんの好きなもの-2
俺の中の邪念がふっと目覚めた。しのちゃん、男の人は好きな女の人におちんちん見せる、ってロジックかましてきたよな。じゃあ、好きどころか結婚する男の人は相手の女の人のたとえば下着とか見たい、っていうロジックもしのちゃんに通用するんじゃないか。そうだ、あれ以来しのちゃんから「お願い」がないのは、言い出すきっかけが掴めなかっただけかもしれないぞ。
俺は視線を公園の向かい側にある小さな林に向けながら咳払いした。今日も公園は無人で、駐車場に車は停まっていない。百メートルくらい離れたところを走る電車の、線路のつなぎ目を渡る乾いた音が小さく聞こえてくるだけで、今日も公園は静かだ。
「……しのちゃんさぁ」
「ん?」
こくっ、と、しのちゃんが小首を左にかしげる。
「結婚するんだから、しのちゃんは、俺のお願いとか聞いてくれるよね」
「うーん、お願いによるかもよー」
いたずらっぽくしのちゃんが笑う。
「例えばさ、……しのちゃんのパンツ、見せて、とか」
「えー、やだよぉ。恥ずかしいよ」
笑顔がふくれっ面に変わる。けど、俺から視線はそらさない。
「だってさ、しのちゃんだって、見せてって言ったじゃん」
「……ん、言った」
しのちゃんがまた口を尖らせた。
「だから、今度は、しのちゃんを大好きな俺が、しのちゃんにお願い。しのちゃんのパンツ、見せてください」
ぺこり、と俺はおどけて頭を下げた。視線の先に、しのちゃんが着ている、裾にしのちゃんの握りこぶしくらいの大きさのスリットが入ったインディゴブルーのデニムスカートが飛び込んでくる。裾のすぐ下の揃えた両膝を西へ傾き始めた夕日が明るく照らしている。
「そっか、おあいこだ。……うん、いいよ、見せてあげる。そのかわり……」
しのちゃんはそこまで言ってちょっと息を溜めた。
「……もいっかい、お兄ちゃんのも見せて」
溜めたふーっと息を吐いてしのちゃんが言った。半袖シャツの俺の左の二の腕に、しのちゃんの吐いた温かな息がかかる。
「え?俺の、なにを?」
わざと聞き返す。期待どおりだ。最初のときの別れ際に言ってたよなまた見せてって。
「だからぁ……お兄ちゃんの、おちんちん」
気のせいか、しのちゃんの声のボリュームがちょっと小さくなる。
「いいよ、しのちゃん大好きだから、なんでも見せてあげる」
「ほんと?ふふっ、あたしとお兄ちゃん、ちょっとエッチ」
「こいびととか、結婚する人って、結構エッチなことしたりするよ」
ちょっと期待を込めて言ってみる。
「えー、お兄ちゃんだけだよそう思ってるのきっと。あたしは、そんなにはエッチじゃないもん」
このふくれっ面、たまらなくかわいいな。
「そっかー。じゃあまた、あそこの中で」