その1-6
浮丸は下調べとして、そんな女達を見定めようとした。
しばらく女と接していない浮丸としては、女と交わりながら
浮世絵を描く為に、女の表情などを観察することだった。
浮丸には、或る男にじっくりと絵を描くために
頼んでいたことがある。
それは、専属の若く美しい女を借家で寝泊まりさせることだった。
そのことの依頼はすでにしてある。
近いうちに、依頼した男は、そんな女を連れてくるだろう。
今は、そのための下準備と言えば聞こえはいいが
実際には、性処理の女を求めたくなっていた。
借家にひとり弥介を残して、やって来たのは「湯場」だった。
湯場とは主に男が湯に浸かり、でた後で茶を飲んだり、
又、湯女を抱くことも出来る男の為の場所だった。
そこは、お上から承認された場所ではないが
気兼ねがなく女を抱くことができる。
帳場で六百文ほどの金を払い、一階にある風呂場に浸かりながら、
湯女に背中を流してもらっていた。
その女はあまり若くは無いが、美しい女だった。
浮丸は浴槽から出て、女に背中を洗ってもらいながら、
その女に声をかけた。
「いい気持ちだよ、姐さん、名は何と言うのかね?」
「はい、あかねと言います、お客様」
「ひとりものかな?」
「はい、娘がひとりいましたが、病で死んでしまいました」
「それは気の毒に、では旦那は?」
「は、はい……ずっと前に、夫も病気で死んでしまいました」
「可哀想にな、それでここで働いているんだね」
「は、はい、お客様……」
浮丸の後ろで、女のむせび泣く様子が聞こえてくる。
女は裸ではなく、湯女として薄手のものを着ている。
それが濡れて引っ付き、大きな乳房がはっきりと見えた。
「どうだ、後で二階の茶室で私の相手をしてくれるかな?」
「はい、ありがとうございます。でもこんな私で良いんですか?
もっと若い女の人がいますのに……」
「いや、良いんだ、あんたを私は抱きたいんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
女は後ろで、浮丸の背中に頭を乗せて咽び泣いていた。
湯女は、こうして男から何かしらの銭を貰って生きている。
「さてと……」
浮丸はゆっくりと後ろを向いて女の顔を見た。
髪を濡らしながらも、見つめて泣いる女の顔は美しかった。
「後で、たっぷりとお礼はさせて貰うからね
でも、私はあなたを抱きたいのだよ、あかねさん」
「こんなわたしを、あ、ありがとうございます」
そう言って、女は浮丸に泣きながら抱きついてきた。
女はつらい生き方を聞かれて、それが悲しく嬉しかったのだろう。
この場所には他の客達がいて、
いきなり抱き合う、と言うわけにはいかなかった。
「二階に行く前に、あそこに個室がある、そこでどうかな……」
「はい、別のお金が掛かりますが、それでよろしいですか?」
「もちろん、良いさ、ではあそこに」
「は、はい」
入口で五百文ほど払い、二人は個室に入った。
しかし、個室といっても完璧ではなく、
簡単な仕切りをしてあるだけで、声は聞こえるし、
男女の絡みさえも、見えてしまう。
男達はそんなことを気にすることなく励んでいた。
「ねえ、あたしは嬉しいのです、お客様……また来てくれて」
「そうかい、金が貯まったんでやってきたと言う訳さ」
「嬉しい!」
などと言いながら、情交をしている男女も少なくない。
すでに裸の浮丸の陰茎は硬くなっていた。
女は湯浴みの着物を脱いで、それを衝立の上に掛けた。
それが、男女の情交をするという「しるし」でもある。
「そこに立ってごらん、あかねさん」
「はい、恥ずかしいです、お客さま」
衝立の前に恥じらいながら立っている女を見て
浮丸は驚嘆した。
子供を産んだとは思えないほど、その身体は美しかった。
白く円やかな肉体。
乳房は豊かで、汗ばんで火照った身体。
それは、浮丸が描こうとしている
まさに浮世絵の女の姿だった。