社内秘 飯塚冴子@-3
どきん、と二人きりの空間で、将宗の胸が高鳴る。
つい意識してしまう。
積み上げられた段ボールが少なくなり、一番下の段ボールになったとき。
しゃがむと見えそうな、冴子の膝より上の辺りの部分を覗きたくなってしまっていた。
「あの…飯塚さん」
「ん?」
「飯塚さんって現場の人間だったのに、生産管理部なのって…何でなんですか」
「あら。あたしのことなんか興味あるの?」
服を畳みながら、冴子は表情を変えずに言った。
「ーーその、男性社員に手を出したからだって」
「知ってるんじゃない。別に、そう思われたって仕方ないこと。言い訳もしないよ。だいぶ昔の話だし」
本当は逆だった。
冴子とは別の店舗にいた男性が、しつこく冴子につきまとっていたのだ。
実はそれがエリアマネージャーのお気に入りの男で、嫉妬をかったのだった。
タカギは、冴子がつきまとわれ、傷ついたという話をしたくないがために、あえてその話を否定していなかったのだ。
「でも、違うと思う」
「はは、別にいいよ。昔の話。
現場にいなくても、今の仕事やりがい感じてるし。広報宣伝部と生産管理部、同じ部屋だし。同期のタカギが側にいるから、ぜーんぜん問題ない」
そう言いながら、冴子のギリギリ手が届く衣装ケースに服を仕舞い終えた時だった。
バランスを崩して、冴子はよろけそうになり、後ろから将宗が冴子の体を支える。
支えた瞬間に、黒いカットソーのVネックから見える胸元を、将宗は冴子の背後から凝視してしまっていた。
「ごめんなさ…い。いま、みえちゃ…った……」
後ろから支えながら、思わず将宗は正直に答えてしまう。
「何が見えたの?」
「下着…の色が…」
(赤なんて…つけるんだ…)
将宗は冴子の体を抱きしめたまま、離せないでいる。
(飯塚さん…いい匂い…する……)
「下着が見えたくらいでドキドキする年齢じゃないでしょ、原くん」
冴子は冷静に言い放って、焦る様子もなく将宗の手を振りほどいた。
そして何事もなかったように、服をしまい終わった空の段ボールを開いて潰していく。
一方で将宗は想像してしまっていた。
男性社員に手を出すーーつまりセクハラをして、店舗から本社とはいえ専門性の低い部署に飛ばされてしまった……
短時間だが接してみて、そんなことをするような人でないと将宗は思ったが……
もしそんなことをするのであれば……どんな風に……
「段ボール、捨てに行きましょうか。そしたら終わりだよね?……原くん?」
いやらしい妄想をしているせいで、将宗はぼーっとしてしまっていた。
「疲れちゃった?ごめんね、タカギがこき使って……」