『香奈子〜愛撫はオンブルローズに包まれて〜』-6
真直ぐ、ではなく、真上。感覚。そう、感覚。正常位でありながら、敬一のペニスは膣中の奥上へ当ててくる。そう、まるで突き上げるみたいに。香奈子の全身に汗が浮き始める。敬一の動きに合わせて、乳房が大きく揺れる。名を呼びたくても、喘ぐことしかできない。口をついて出るのは、淫らな母音ばかり。でも、こんな淫らな自分に酔わせてくれるのは、敬一しか、いない。
「もっと…」
ようやく吐き出した言葉は、次なる快感を求める恥ずかしい言葉。座位へと抱え込まれ、敬一の上で激しく上下する。ベッドが音を立て軋む。額から落ちる汗が二人の胸元で溶けてゆく…。
敬一の手の動きで、敬一の望むものが分かる…。自然と背を向け、恥じらいもなく這い、秘部を差し出す自分が、ここにいる。背を反らし、尻を上げ、這った手足に力を込め、再びの挿入を待ちわびる。来る…硬い、硬い、ペニスが、敬一の感触が、入って、来る…。
「あああぁぁぁっ」
隣室に明らかに聞こえる声。分かっていても、抑えることのできない声。肉と骨がぶつかり合う、激しい動き。引力に誘われる様に、四つに這った香奈子の胸元で乳房がぶら下がり、揺れる。顔を上げることができない。全身を一直線に貫く、刺激と快感。泣きじゃくる様に愛液が垂れ落ちる。
「イ…イキそう…」
太くも、もろい声で敬一が呻く。
「いいよ…イって…き、来て…」
ほんの一瞬、顔を出す母性。背中一面に飛散する、精液。手足の力を失い、伏せる香奈子。汗をまとった敬一がゆっくり重なってくる。鼻をすする音。繰り返される荒い呼吸。指と指を繋いで、互いを気づかう。
“今のままでいい…”
香奈子の中で、あの日の言葉が蘇る。手を背中に回し、生暖かい精液に触れてみる。
「奥さんと、してないの?」
息とも声とも分からない敬一の返事に香奈子は笑む。
「こんなに…いっぱい出して…」
香奈子は、そっと敬一の鼻先に唇をあてる。
「帰るなよ…泊まっていけよ」
敬一が呟く。天井の一点だけを見ている。
「結婚することにしたんだ」
同じ天井の一点を見つめ、香奈子が呟く。敬一の視線を感じる。見つめている。見つめられている。咳ばらいと、鼻をすする音が交互にする。
「どんな奴だ?相手…」
敬一が香奈子に覆い被さってくる。痛いくらいに指先に力が入っている。感情に任せた唇が、香奈子の胸元で不規則に愛撫を重ねる。珍しく不器用な愛撫が香奈子には、嬉しかった。
“今のままでいい…”
(終)