1:1:1〜豊田早将〜-4
死んだように動かなくなる成に、俺は焦りを感じ急いで近寄った。
「な…成?」
俯いてる成を覗き込むように体を屈めると、成が小さな声で話しだした。
「…無理なんだよ」
俯いているため表情は見えなかったが、もしかして泣いているのか?と感じるほど弱く小さな声だった。
「…俺の気持ちは早将に比べたら本当に微量で…自分の気持ちも、早将の決意や佐和の告りを受けてやっと気付いたくらいで…。たとえもっと前から気付いていても、関係を壊すことを恐れて気持ちを伝えようとはしなかったと思う」
俺は机にもたれかかり、静かに話に耳を傾ける。
「…つまり…何が言いたいんだよ?」
「俺はその程度なんだよ…お前のでかい想い乗り越えてまで佐和を想う自信はねー…」
言いおわると、成将は謝るように首をたれ下げた。
彼は彼なりに…
俺と佐和の間に挟まって、悩んでいた様子。
幼い頃から知った仲の成将だが、自分の想いをここまではっきり口にしたのはコレがはじめてだった。
それほど成はその無表情な外見をよそに、考え込んでいたことを知り、なんだか笑みがこぼれた。
もちろん、失恋のショックとはっきりしない成将にもやもやしていたけど、少なくとも佐和のことを真剣に考えていることを知れて安心した。
「お前の気持ちも十分でかいと思うけど…」
俺はポツリと呟くと、最後に一つだけ確認する。
「シンプルに…好きか嫌いかで言ったら、成は佐和のことどう思ってんのさ?」
俺はもたれかかった机に手を伸ばし、成将に気付かれないように怪しい動きをする。
「シンプルに…。……」
成将は少し考えて重い口を開いた。
「…好きだ。親友として大事にしたいって…お前の手前ずっと考えるようにしてたけど、今思えばずっと…好きだったのかもしれない。告白受けてから…ぶっちゃけ佐和の顔見れないほどうれしい自分もいた」
成将はしゃべりながら、どんどん顔を紅潮させていく。
普段成将がこんな台詞を吐くことはありえない。
俺への罪悪感とか、佐和に言えないもどかしさとか…いろんな気持ちが膨らんで、今やっと本音をぶちまけてるんだと思う。
それは俺にとって好都合だった。
「…いや〜。いい告白でしたね、みなさん聞いてくれました?」
俺が振り返って机から出ていたマイクに話し掛けると、成将は状況を掴めていないのか口をあんぐり開けて俺を見た。
そんな成を見て、俺はしたり顔で笑う。
「えーただ今の告白は、2年の佐々成将君が同じクラスの郡司佐和さんに今まで言えなかった本音をぶちまけたものでーす」
耳を澄ますと、俺の声がマイクを通して校舎内…果てはグラウンドまで響いているのが聞こえた。
それはもちろん成将にも聞こえていて、俺がなにをしたかを知るとさらに顔を真っ赤にして照れながらも本気で怒りだした。
「お…おま…〜早将ぁ!?」
「愛の告白生放送☆全校生徒が証人で〜す。もち佐和も聞いてるっしょ?もう、付き合うしかないんじゃな〜い?」
けけけっと悪戯っぽく笑うと、俺はもう一度マイクをONにした。