純・潔・危・機-3
だがそこに、瑞華からの二の矢が飛んだ。
「でもここで、バージン卒業する?」
ぞっとするようなことを告げられ、みさきは思わず身を起こして逃げ出そうとしたが、間髪を入れずに朝菜と公江に取り押さえられた。もう一度スカートをめくられ、陰部を露出させられる。
いよいよ恐れおののくみさきだが、この場には自身も含めて、女しかいないのだ。いくらなんでも、レイプまではされるはずがない……彼女はそんなふうに思いかけた。
だがそんな矢先、瑞華はあるものを持ってきた。
部員の誰かが置き忘れたのか、それとも非常用に置かれているのかは知らないが、ビニール傘だ。
瑞華はその先端をみさきの股間に突き付けて言う。
「あんたみたいな女の初体験の相手、こんなものでも十分じゃない?」
とんでもないことを告げられ、みさきは心臓まで凍りそうになった。
「そんな、ひ、酷い……」
傘に処女を奪われる。
それはある意味では男に犯される以上に、女性として無様で、惨めで、屈辱的なことかもしれない。
むしろ男であれば絶対にやらない仕打ちだろう。そんなことをして、美少女への一番乗りの権利をわざわざ棒に振るような男がどんな世界にいるというのか。
「あんたには男じゃもったいないもんね。西永くんにバージン捧げられたかもしれないのに、ほんとバカな女」
仮に浩介と付き合うことになっていたとしても、中学生のうちから肉体関係を持つなんて、みさき自身は想像もしなかったことだろう。
そんな少女の純潔を、男を知るより前に、瑞華は凄惨な方法で辱めようとしている。
傘先が秘裂の間に押し当てられると、みさきはあまりの恐怖に全身をわななかせた。
あわや、失禁しそうになった。
「や、やめてください!!」
彼女は懸命に哀願したが、表情一つ変えない瑞華だ。
瑞華の持つ傘の先端は、みさきの秘唇をかき分け、ほどなく膣口を探り当てた。
同性にレイプされるも同然の恐怖の瞬間を前に、みさきはとても正視はできず、ぐっと目を閉じた。
こんなときにふと、3年前の今頃、病床の母から聞かされた話が思い起こされてくる。
母はもう先が長くはないこと。娘にずっと寄り添っていくことはできないことを、この時期にはもう悟っていただろう。みさきの方も、それを何となく感じ取っていた。
それだから、母はかつてなく真摯な面持ちで、みさきにいろいろなことを話した。
そのなかには、もうすぐ思春期を迎える娘に、母親として伝えておかなければならないことも含まれていた。
これからみさきのからだに起きるだろうこと。それをどう受け止めるかということ。そのために準備しなければいけないこと。
女性として、自分のからだを大事にしていくこと。そのための心得。
学校の性教育などより、ずっとずっと心に響く話だった。
母は中学に入学したみさきの制服姿を見届けるように世を去った。それからもずっと、みさきは亡き母の言葉を胸に、いつか自分が母親になる時まで、女性としての自分のからだを大切にしようと心に決めて生きてきた。
そんな母の思いまで踏みにじられるような気がして、みさきは絶望をかみしめた。
しばらく、目を閉じた暗闇の中で、沈黙が続いた。
「ま、今はそれはやめとくけど」
闇の中で、瑞華の声が聞こえた。同時に、陰部に触れていた傘先が離れるのも感じた。
それでみさきが恐る恐る目を開いた先には、冷たい笑顔で見下ろす瑞華の顔があった。
いまだ恐怖が覚めやらず、みさきは震えたまま、身動きもできない。そんな彼女を見て、傘を投げ捨てると瑞華は高笑いした。
「あーっははは! マジでやると思った?」
さすがに瑞華でも、そこまで残酷なことはしないということなのか。ただみさきを怯えさせていただけだったのか。それとも、「今は」という台詞からして、ただ先延ばしにしただけ。処女のままにしておいたほうが、これからの辱めはもっと応えるはず。そう思ってのことだったのか。
いずれにせよ、みさきの純潔の危機はひとまず回避された。彼女もようやく人心地がついてくる。
キーンコーン、カーンコーン。
そんな時、昼休み終了5分前を告げる予鈴が鳴る。
「昼休みももう終わりだし、まあこれぐらいにしとこっか」
そう告げられて、みさきはようやくパンティを履いた。よろよろと立ち上がり、なお覚めやらぬ羞恥に駆られつつ、部室を後にしようとした。
だがそこに、瑞華から非情の一言が告げられる。
「明日土曜日の昼1時半に、またこの部室に来てよね。まだあんたの罪の償いは全然済んでないんだから」