初めての邂逅-4
「良かったらゆっくりしてって下さい」
悠斗の動揺は母親に簡単に受け流され、母親は片付けと同時に、コーヒーをいれる準備をしていた。
(ーー俺、あんなこと考えたあとで二人きりになって何もしない自信がない……。どうしよう)
コーヒーが出来上がり、悠斗はそれを持って冴子を自室へ案内する。
「どうぞ、すみません……。クッションの上にでも」
「ありがとう」
冴子は軽く頭を下げると、テーブルとベッドの間に置かれているクッションの上へと座る。
悠斗はテーブルの上のパソコンが置いてある横に、コーヒーのマグカップを二つ並べると、冴子の向かいへと座った。
隣に座ってしまえば、我慢ができないと思った。
「緊張…してたよね?ごめんね、何か嫌だった?」
冴子はブラックのままコーヒーに口をつける。
伏せた睫毛が綺麗だった。
どきん、どきん、と胸が高鳴る。
「嫌なことはないです……俺こそ「綺麗でしょ」とか……先輩なのに、変な言い方して」
「何で?嬉しかったよ。ありがとう。
ていうか、今更何でそんな向かいに座ってるの?隣、嫌?」
「いや……そんなわけ……」
「隣、おいで?」
他の男にも、こうやって甘い声で誘うんだろうか。
胸の高鳴りが収まらないまま、悠斗は立ち上がって隣に座る。
それでも、この室内では不自然な距離だ。
「その距離、コーヒー取れなくない?」
「う……」
そう指摘され、悠斗は距離を詰めた。
ふわり、と柑橘系の冴子の香水の匂いが鼻をつく。
その匂いに引き寄せられるように、悠斗は冴子の右肩に自分の頭を乗せるようにする。
「離れてたと思ったら甘えん坊さんじゃない」
冴子はマグカップをテーブルに置くと、悠斗の背中をさすった。
「先輩が来て、緊張して疲れちゃった?」
その問いの答えの代わりに、冴子の首筋に悠斗は唇を軽く当てるとそのまま冴子の体を抱きしめた。
「こうしててもいいですか」
「ん。いいよ。門井くん、可愛いなぁ」
性欲、独占欲、佳織へ対するもの、冴子に対するもの。様々な欲求が悠斗の中で交錯していた。
とくん、とくん、と冴子の穏やかな鼓動が聞こえる反面、冴子とのゼロ距離で、悠斗のそれはおそらく速まってしまっている。
冴子は何も言わずに、悠斗の頭を撫でている。
悠斗は心地よかった。
多分この心地良さはおそらく、冴子が性的な対象である以上に、冴子への信頼感からくるものだ。悠斗はそう思った。
「流石に…がっつくつもりはないので…キスしても…いいですか」
「どうぞ」
発情してしまいそうな悠斗とは対照的に、冴子は穏やかに、屈託のない笑顔で答える。
(可愛い。したくなる……)
その答えに、顔を上げて、体を抱きしめたまま冴子の唇に軽くキスをした。
柔らかい、ぽってりとした唇。
もし舌を差し入れたら「がっつくつもりはない」と言ったけれど、それ以上のことをしそうで怖かった。
それでもその唇が欲しくて、何度もついばむようにキスをする。
「ん…」
繰り返されるキスに、冴子から甘いため息が漏れた。
「ん…んっ…」