初めての邂逅-2
クスッと冴子が笑う。
「そ…そんな。飯塚さんなら、俺じゃなくてもたくさん、過ごす男の人いるんじゃ?」
そう、冴子にはセフレがいるのだ。
さらに、こういう関係になるまでは気にしたことがなかったがこの綺麗な見た目なら言いよる男はたくさんいるのだろう。
「もしいたとしても、後輩とその辺の適当な男なら、後輩優先するよ。その辺の男は替えがきくけど仕事の後輩はきかないでしょ。
それに、一応そういうことしてる間柄なんだから他の男のこと聞かないの」
ふふっ、と笑った冴子は悠斗の頭をぽんぽんと撫でる。
「えっ、あっ…」
頭を撫でられて、悠斗は子供扱いされたようで何だか恥ずかしくなった。
「それとも門井くん、気になるの?あたしがどんな男と会ってるか」
かぁあっと悠斗の顔が熱くなる。
図星だった。おそらくどこかで、冴子に対する独占欲があるのだ。
「エッチ。あたしが他の男にどんなことされてるか知りたいんだ」
昼間にもかかわらず、耳元に唇を近づけてそんな妖しいことを囁く。きっとそんなことを囁くことさえ、冴子には何でもないことなのだろう。
だが、悠斗は大人の冴子に自分の感情を見透かされて恥ずかしく、その反面発情してしまいそうだった。
しかも、「どんなことされてるか」ーーつまり、男と会う時はそういう行為を行なっているということなのだろう。
ふわり、と近くで香る冴子の香水はいつも会社につけてくる柑橘系のものだったが、そんなに近くで冴子を感じて、いやらしいことも掻き立てられ、どきんと胸が高鳴る。
「ううぅうっ」
思わず変な唸り声をあげて、悠斗は冴子の手を握った。
それは、他の男との行為を知りたい気持ちがある一方で、性的な魅力溢れる冴子を他の男から独占したい気持ちもどこかにあるという悠斗の、最大限出しうる気持ちの表れだった。
「これが答えですっ」
冴子はケラケラと笑いつつ、悠斗に握られた手を握り返し、指を絡ませる。
「ふふ、ヤキモチなんか妬かないの」
冴子がそう言った時、悠斗がふと顔を上げると、ある人物の顔が遠目に見えた。
悠斗は思わず、繋がれた手を離す。この光景を見られたくないと本能的に思ったのだろう。
一歩、二歩、とお互いが近づいていく。
冴子も、気づいた。ああ、あの人なのだろうと。
「こんにちは」
小さい声で、悠斗は挨拶をした。
ーー買い物袋を持った佳織だった。
「悠斗くん」
気づいた佳織は悠斗の名前を呼ぶ。冴子も会釈をして、すれ違う。悠斗と佳織の間にそれ以上会話はなかった。
「えっ…綺麗なかたですね…」
玄関先で、悠斗が連れてきた冴子を見て挨拶するより先に、悠斗の母親は思わずそう漏らした。
「はは、何を言ってらっしゃるんですか。飯塚冴子と申します。悠斗さんと同じチームで。先日悠斗さんとあたしが同じタイミングで残業したのをきっかけに食事とか付き合ってもらってます」
「ご、ご迷惑はかけてないですか」
家に上がり、廊下を歩いている最中に緊張したような言い方で悠斗の母親がそう尋ねる。
「悠斗さん、とても熱心に仕事に取り組んでますよ。寡黙で真面目だと思ってましたが、話すととても面白いですし」
「そうですか。びっくりです。悠斗はあんまり飲み会なんかも行くタイプじゃないし、会社でうまくやれてるかどうか心配してたんです」
まるで学校の三者面談のようになっている。