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『真由〜不確かな現実と、確かな欲情の中で〜』
【その他 官能小説】

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『真由〜不確かな現実と、確かな欲情の中で〜』-2

誘導灯を頭上で、左右に大きく振る。ヘッドライト。渋滞。片側交互通行。減速しつつも車が近付いてくる。秀典は誘導灯を肩に水平に下ろし、ドライバーに小さく一礼する。サイドブレーキを引く音が、早朝の冷えた空気に響く。アスファルトを積んだトラックが警告音を鳴らしながらバックする。道路工事。交通誘導警備。秀典の口を何度も欠伸が突いて出る。白み始めた空が、工事の終わりを知らせてくれる。重機で踏み固められた道路から、低い位置に湯気が立っている。現場監督の太い声が英明の眠気を一瞬取り払う。クラクション。パッシング。慌てて誘導灯を振り回す。流れ始めた車列が、秀典の横をすり抜けてゆく…。

 工事終了。規制解除。下番報告。日報に現場監督のサインを貰うと、秀典は手早く身支度をする。誘導灯、夜光チョッキ、ヘルメットをバッグに押し込み、制服の上にハーフコートを羽織る。スクーターにキーを差し込み“キック”を入れる。震えるような細い声でエンジンが始動する。一瞬だけ後方を振り返ると、秀典はアクセルを全開に走り出す。完全に明けた夜に誘われて、市街地へ向かう車の量が急速に増えていく。ストレスに満ちた渋滞を後目に、秀典はスクーターを走らせる。小さな鼻歌がヘルメットの中で、耳に反響した…。スクーターの振動が心地よく、無意識に秀典の性器を勃起させていた…

 国道。交差点。ファミリーレストラン。テーブルに並べられたハンバーグとオムライス。サラダにジュース。朝食であって夕食。朝であって夜。ガラスの向こうの渋滞を見ながら、秀典はわざと大きく口を開け頬張る。食欲を満たしていくうちに、太陽に引き吊りだされた性欲が下半身を熱くしていく。一旦、ナイフを置き、大きく息をつく。
“ビデオでも借りて帰るかな…”
 ひとつ向こうの交差点。秀典の目にレンタルビデオ店の看板が目に入る。無意識に硬くなった局部に手を添える。感じる筈のない熱が、確かに手の平に、ある。皿の残りを休むことなく胃に送り込み、秀典はファミレスを出る。小銭がポケットでだらしなく鳴っていた…。

 小さなカーテンで仕切れれた一角。アダルトコーナー。秀典は溢れる裸体と淫美な表情の中から、2本のビデオを選んだ。暖簾をくぐるようにカーテンを払い、レジへ向かう。気まずさが喉を鳴らす。店員が女性に変わっていたから、だ。丸みのある肩。店のエプロンが違う意味で、似合っている。背中に届く手前の、細い髪は、根元辺りに黒みが現れ、小さな生活感を滲ませている。
「ご返却は?」
 事務的な問い掛けに、秀典は息を飲む。
「明日…で。」
 ガサガサとビニール袋が手際よく用意され、秀典の“吐け口”が彼女の手によって支度される。まるで彼女の指で、陰部をまさぐられるような快感を、秀典は感じていた。

 以来、秀典はその店で、その女性店員で、アダルトビデオを借りることが多くなった。否、違う愉しみに、気付いてしまった…。名札を見て、その女性店員の名が真由だと知った。レジでは思いきって顔を上げ、逆に真由を見つめてビデオを差し出すことも憶えた。
“俺はこれを見ながらオナニーするんだ”
 真由の顔を凝視しながら秀典は、胸の中で囁く。不思議な快感と興奮が鳥肌を立てる。夜勤に疲れた意識が性欲を解き放ち、ねじれた快感を与えてくれた。お金を受け渡しする瞬間に触れあう指先が、たまらない刺激となった。
“ほら…勃起してるんだぜ、俺…”
 これから自慰をする男を前に、女が何を思うのか…秀典の胸はいつも高鳴った。

 糸を引くような女優の喘ぎ声が、秀典の放出欲を冷ましてゆく。力無く垂れ落ちる精液が、挿入していない疑似セックスを物語っていた。秀典は大きな欠伸を天井に吐き、剥き出しのペニスをそのままに、床に寝転ぶ。
“つまんねぇな…”
 頭の中で真由の柔らかい肩の線が浮かび上がる。正午を知らせるテレビの時報。朝、借りたビデオを返し、新たに借りるのはさすがに気が引ける。でも、…。
“オナニーばかりしてる…なんて、思われるだろうな。軽蔑されるだろうな…”
 秀典の目の奥に怪し気な光が灯る。その光はやがて秀典の口元に軽い笑みを作り、理性を破壊していく。秀典を、堕落した性欲が支配していく…。

 目的をもって選んだジャージ姿。数時間前に借りたばかりのビデオを真由に返す。一瞬、真由の目が秀典を見る。ヘルメットに押えつけられ、歪なままの髪を整えることもなく、秀典はアダルトコーナー進む。裸体に飾られたパッケージに囲まれ、秀典は額の裏側で真由の先程の目を思い出す。
“そんな目で見るなよ…そいつじゃ、ヌケなかっただけだよ…”
 唇の端で笑う。真由のエプロン越しの丘の線が、どのパッケージよりも秀典には愛しく、いやらしい対象(ターゲット)に映った。精液がざわめき始める。目的をもって選んだジャージ…。激しく隆起したペニスが、薄い布を突き上げ、そのカタチを現す。真由に見せつけるために…。


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