初めての指先の感触-1
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自分がこんなにも面倒くさい男だと思わなかったーー悠斗はつくづくそう思った。
二十代半ばの自分など、経験がないゆえに新たな局面に立ち向かうとすぐさま焦り、暴走してしまうのだ、と。
隣宅の友人である岳の母親の自慰行為を覗き見た際、彼女への性的興奮が止まらなかった。
佳織に対する感情は恋心なのか、端的な性的欲求なのかーー悠斗には判断しかねていたのだった。
そんなときに、職場で同じチームの先輩である飯塚冴子と寝た。
「ーー何か相談事でもあるんじゃないの?」
会社の近くの居酒屋のカウンター席に座る悠斗の右隣で、冴子がそう切り出した。
冴子との出来事があってから約一週間ほど経った時の金曜日のことだ。
定時で上がる冴子に悠斗は声をかけて、食事に誘った。
悠斗が会社のメンバーと飲みに行くことは滅多にない。
冴子が悠斗の残業を手伝った先日は偶然冴子が誘ったものの、そういう機会はほとんどないに等しかった。
「ーーあれから仕事集中できてるみたいだから良かった」
「はい。何とか…飯塚さんのおかげです」
悠斗は苦笑しながら答えた。
「何それ。ストレス溜まってたって、性欲溜まってただけ?もんもんとして仕事できなかったの?」
冴子はハイボールをゴクリ、と一口飲むと笑って尋ねた。
改めて、冴子のことを優しいと悠斗は思っていた。
というのも、テーブル席が空いており店員がそこに通そうとしてくれたのに、わざわざカウンター席を冴子は選択したからだった。
おそらく「相談事がある」のだと踏んで、なるべく小さな声で話しやすい席を選んでくれたのだろう。
「いや…それは否定できなくて」
「彼女としてないとか?」
口元に運ぼうとしたビールのジョッキを持つ悠斗の手が、思わず止まる。
「やだ、図星?別に浮気男、とか責めてるわけじゃないからね」
「か…、彼女なんかいませんよ」
「そう。じゃあ、アレだ。好きな人、いるんだ。本当はその人とエッチしたいのにそんなこと言えない距離感なのかな」
「ーー飯塚さんって色々考えてくれてるんですね…本当」
悠斗は自分の面倒くささを呪った。
この面倒くささは、冴子ほど歳が離れている人間であれば、簡単に見抜けるものなのか、と思ったからだった。
ひたすら悩んでいたことを、ほぼ当てられているではないか。悠斗は情けなくなった。
「ーー好きか、どうかもわからないです。でも、飯塚さんとホテル行って、仕事集中できたってことは好きじゃないのかな。ヤリたいだけなのかな」