初めての指先の感触-2
悠斗はヤケになって、半分ほど残っているビールを飲み干すと音を立ててジョッキを置いた。
「あ、店員さん、ビールもらえますか?あとお水も」
その様子を見た冴子は、後ろを通りかかった店員にビールを頼む。
程なくして、ビールと水が悠斗の前に届く。
「お水も飲んでね、門井くん。苛苛してるときは変な酔い方するから」
ぽんぽん、と悠斗は肩を叩かれる。
「あたしのこと誘ってくれたとき、積極的だったじゃない。だけど、その人にはしないのって嫌われたら嫌と思うからでしょう?」
「はい…」
「その人のこと、大事だからじゃない」
「確かに…」
冴子はふふっと笑って、ぽってりとした唇を悠斗の耳元まで近づける。
「本当は、襲っちゃいたいくせに。あたしにしたみたいに…その人のこと」
そんな風に冴子が妖しく囁いた。
冴子にしたように…嫌がる佳織の手を押さえつけて、服をほとんど脱がさないまま体を舐めまわして。
柔らかい部分に噛み付いて、あとをつけてーー
そんな想像をしてしまい、かぁあっと顔が熱くなるのがわかった。
冴子の長い指が、悠斗の頬をつん、とつつく。
「ふふ、いじわるしちゃった。顔熱くなってる」
「だ、だ、だって、飯塚さんがそんなこと、言うから…」
「寡黙で真面目な門井くんが本当はこんなに可愛いって知っちゃったら、いじめたくもなるでしょ?
…そんな門井くんが好きな人なら、きっととても素敵な人だね」
頬杖をつきながら、冴子はうんうん、と頷く。
「素敵…ですよ。綺麗で、仕事もバリバリできそうで。ご飯も美味しい」
照れながら、悠斗はにかっと歯を出して笑った。
「へぇ。門井くん、そんな風に笑うんだ。余っ程好きよ、それ。それにご飯食べたことあるの?おうち行き来する関係で手出さないなんてちゃんと我慢してるんだ。それって偉いよ」
冴子は悠斗の頭をぽんぽん、と撫でた。
妖しく、いやらしい一面を持ち合わせつつ、悠斗の先輩としての表情もあって、寡黙な悠斗が珍しく冴子に対して信頼を寄せつつあった。
付き合いの長い佳織や、岳は別として、悠斗がこんな風に感情を出して話すことはあまりなかったのだ。
「隣…なんです。家。付き合いも長くて」
「それは…確かに何かあったらきまずいね…?」
ハイボールを飲みながら、冴子が気難しそうな顔をする。
と、その瞬間、グラスを置いて、パッと悠斗の方へ顔を向けた。