初めての社外業務-3
今まで意識をしたことがなく、特にプライベートな話をしたことがないとはいえ、同じチームで仕事の話をする際に冴子の隣に並ぶことはよくあった。
いつもなら、甘いというよりは柑橘系の爽やかな匂いの香水をつけている。
だが今日は、甘ったるい、男性を誘うような香水の香りだった。
「香水の匂い違うのとか、バレちゃうのね。恥ずかしいな。
てゆーか、門井くん寡黙なタイプだと思ってたから気づかなかったけど、結構人のこと見てるんだね」
「飯塚さんこそ。疲れてるの気づいてくれたじゃないですか」
「それは、あたしの後輩だもの。当たり前じゃない」
「ーー今日のストレス発散の手段、奪っちゃってすみません」
その悠斗の物言いに、冴子はクスクスと笑った。
「大丈夫。ご飯付き合ってくれたらそれでチャラよ」
冴子は悠斗の背中をリュック越しにぽんぽん、と叩いた。
歳が離れた先輩であることに加えて、この女性的な見た目のせいで、悠斗にとって話しかけづらい印象があったが、どうやらそんなことはないらしい。
むしろサバサバとしていて、他人に気を使いつつも、そのことを相手に気にさせないような接し方をしてくれる。
「ーー俺じゃ、ダメですか?ストレス発散」
「だから、ご飯付き合ってくれたらいいってば。気にしないで」
「そうじゃなくて」
佳織との行為は…
今までの悠斗の経験値の中では想像できないほど卑猥なものだ。
だが、何故こんなに、眠れないほど毎夜自慰行為にふけるのかーー
悠斗にはわかっていた。
「しませんか?セックス」
(俺は…おばさんの裸さえ見たことがないからーー)
居酒屋で軽く胃にものをいれたあと、会社の最寄りの一駅先にある繁華街へと向かうためにタクシーへ乗った。
冴子を見かけてしまった悠斗のように、誰かに見られたら困るとの判断だ。
悠斗は不思議と落ち着いていて、冴子の方がむしろ落ち着きがない。
一方でホテルへ入ると、冴子はスマートに会計を済ませ、自ら鍵を受け取り部屋へ向かう。
年の功と言えばいいのか、やはり手馴れているようだ。
「俺、先にシャワー浴びてきます」
悠斗は急いでシャワーを浴びた。
早く冴子とセックスがしたかった。無理に誘ったわけではない。
戸惑いつつも、冴子は了承してくれた。
悠斗はバスローブを羽織ると、ダブルベッドの端に座ってスマートフォンを眺める冴子の横に座る。
冴子はコートとジャケットを脱いでおり、室内用のスリッパに履き替えている。
「ねえ…門井くん、本当に大丈夫?
気を使わせてるのなら…無理しなくていいんだよ?あたしより、十五くらい年下でしょう。あたしは年下の男の子とできるなら光栄だけど」
そう言いつつ、グーの形を軽く作った手の外側で、悠斗の頬を撫でる。