(特別編)カプリコンの心/犬にチョコレートは毒-2
3
場面が変わり、あのガラパゴス・グレートが現れる。
敵方の大型・最強機体とのタイマン勝負。
両足や胴体からの複数の機関砲からの銃弾の嵐と、両肩からのビーム砲撃連射。かいくぐり避けながら、こちらもマシンガンで応戦する。巨大な廃墟ビルや岩場を盾にして立ち回りながら接近し、短剣で斬りつける。
槍で受け止め、防がれてしまう。
機関砲からの銃弾を受けたが、大型機体であるカプリコンには、多少の直撃ならば牽制にしかならない。おまけに追加装甲のアーマーがある。ジャンプして飛びかかって、上方から斬りつける。片腕の基部とビーム砲を片方破壊したものの、決定打撃にはならない。
苦し紛れのカウンターで殴られ、ビーム砲撃まで受けてしまい、ついに胸部の追加装甲が砕け散る。
それから損傷したガラパゴス・グレートは後退して行ったが、戦況は思わしくなかったようだ。
別方面で難民船を偽装した船舶から、敵の兵士と小型のロボットウォーカーが大勢飛び出して、港湾の基地と周辺の町を滅茶苦茶に破壊していると通信連絡が入る。自国の被災地域からの避難民を保護していた田舎町が火の海になって、数千人が死んだり行方不明になったらしい。バイオメトリックスシステムはパイロットの「凄まじい怒り」を記録している。
4
同型カプリコンの一隊で、敵の特殊部隊を攻撃する。後にパトリシアが乗る現在の一号機以外は、試作型の新型高度バイオメトリックスシステムは搭載していない。
大型核の長距離バズーカを持ったガラパゴスが数機。間に合わず、阻止できない。
弾頭が数発発射されると、ややあって遠方で閃光とキノコ雲が立ち上った。
また場面が変わる。
今度は、ガラパゴス・グレートが半壊で倒れている。
逃げたパイロットを追って、カプリコンのパイロットが飛び出していく。生身でアサルトライフルを持って、要塞の入口の一つに飛び込んでいく。ヘルメットで顔は見えなかった。
どす黒い殺意。「殺す」。それが最後の感情データ。
そしてカプリコンのコンピュータは、レーダーからロストするまで、パイロットの足取りを追い続けた。
5
パイロットを失い、荒野を徘徊するカプリコン。
彼を操っていたのは、行き場のない怒りと殺意。
やがて何度も場面が変わり、知っている風景。
あの、過去の一時期にパトリシアが囚われていた、現在のアキダホ第三駐屯地村だった。
パトリシア。あのときの。
コンピュータの人工知能は「敵ではない」と判断した。
保護対象として計算し、敵味方を推測で識別する。
ガラパゴス・グレート。
殴り倒されたところへ、味方が駆け寄ってくる。
パイロット不在。
味方パイロットの可能性高し。
搭乗。セミオート。
「パイロット・練度不明。被災した味方民間人の可能性大。これを保護しつつ、勝利・生還せねばならない」
がぜん「やる気」が違っていた。
もしコンピュータに「心」があるなら。
たぶんそれは「愛」だった。
6
カプリコンのバイオメトリックスシステムの回想から引き戻されたパトリシアは、やはり「この機体には心や魂がある」と思った。
(こんなものを見せるとか)
ロボットなりに、新しい今のパイロットであるパトリシアのことを気遣って、何か伝えようとしたのか。過去の悲惨とか過ちだけに囚われて続けるなとか、彼もパトリシアと出会うことで、無事に変わって立ち直ったとでも言いたいのか。
コックピット内部のカメラが、彼女を見ている。
キスしてやると、キュインと鳴る。
(チョコレート)
ふとそんなことを思った。
結局、パトリシアはレオとカプリコンに、「仮の義理」チョコ。セラは兄のレオにあげる分以外では犬用に、砂糖をごく少量にしたものも制作していた。