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薄紫の刻
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薄紫の刻@-2

「で、そのハゲ、アタシに何て言ったと思う?」
いつものように患者の悪口を言う彼女に僕は、いつものように適当に相づちを打つ。
「やっぱりオッパイ小さいんだねぇ、だってよ!」
いや、大きくはないでしょう、と言いかけて止め、僕の視線は当然ながら彼女の胸に落ちた。
「アタシは着痩せするんだよ、バカ」
最後のバカはそのハゲに言ったのか僕に言ったのか分からなかったけれども、無造作に僕の顎を掴んで乱暴に顔の向きを変えさせたということは、今のバカは僕に向けられたものだったのだろう。
「てゆーか、大熊さん」
「カナコって呼んで。分かるでしょ?」
名字で呼ばれることが嫌な理由は勿論分かるが、そう呼ぶことの不自然さを彼女は分かっているのだろうか?
「じゃあ……カナコさん」
少し照れながら言った僕の熱は、彼女の「何?神谷くん」という呼び方で一気に冷めてしまった。
「仕事、ほっぽっていいんですか?」
此処に彼女が来て、一方的なお喋りの合間に吸った煙草の本数は二本だったが、僕の腕時計の長針と短針は真上で重なろうとしていた。
「ヤバい!巡回の時間だわ!」
自分の腕時計で時刻を確認したカナコさんは、はなから僕などいなかったように、何も言わずに駈けて行った。
僕は重いため息を吐き出して、新しい煙草をくわえようとしたその時、扉からカナコさんが顔だけ出して言った。
「次の夜勤は金曜だから」
カナコさんは、僕の返答も聞かずに階段を駈け下りていった。その軽快な音を聴きながら、僕はもう一度ため息をついた。


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