人質交換/カプリコン二号機とミケ・トラフグ-3
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ミケのカプリコンは剣を手にして、ガラパゴスと正面から対峙する。左肩の小型キャノンと左腕の短距離ビームで撃ち合いつつだが、素早い反面で防御力やパワーで劣ることは否めない。
中型ウォーカーは射撃火力に優れているイヌノフグリが対処しているが、当面はこの怪物を引き受けるしかない。それでも合間合間で援護射撃してくれるのは有難く、どうにか持ちこたえていた。
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あの人質交換の場所で、トラックに載せられているときに、遠くの森で交戦らしき砲声と爆発が鳴り響く。
まだ地面にいたナタリアは数瞬の呆然の直後に、狂ったように叫びだしていた。
「殺せっ!」
それは「自分を」の意味ではないのは、視線や表情などから明らかだった。
憎悪と怨恨で顔を歪ませ赤らめながら、戦いに罵声を投げつけているのだ。夜叉のような剣幕で、自分たちをこの場に捨ててゲリラに引き渡した「元」味方の兵士たちや、自分たちと引き換えに救われた同性の女どもを。
「殺せ! 殺せ! 殺せよっ! 殺せ、生かして帰すなっ! あいつら、皆殺しにしろおおお! クソな女どももガキどもも、皆死んじゃえっ!」
腕を振り回して地団駄を踏む美女ナタリアに、ゲリラ兵士たちも呆気にとられたようだった。トラックの荷台の女たちにも伝播し、元から抱いていた憎しみが声になって爆発する。口々に「死んでしまえ!」「殺してやれ!」と喚き散らす女たちの有様は、それだけで地獄のような喧騒の光景だった。
だが、ナタリアや他の女たちの気色ばんだ頬は、いつしか涙に濡れていた。叫びはいつしかすすり泣きにかわっていき、筆頭でヒストリーを起こしていたナタリア自身もまた、急に膝の力が抜けたようにへたり込む。
ゲリラ兵士たちが面白がって笑いながら担ぎ上げて、トラック積載する。荷物のように。
ナタリアは「放せ!」とヒステリックに泣き叫んで、指の爪で顔面と目玉を引っかいた。即座に怒り狂った鉄拳を顔面に喰らい、口の端から血を流して「ごめんなさい」と言い終わらないうちに、髪をつかんで横っ面を二回三回引っぱたかれて、荷台の床に転がされた。
それが狂った地獄の始まりだった。