Perfume-3
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(まあ、折角ここまで来たんだから・・・・・)
ここでアウザー不在の軽い落胆から気を取り直したセリスの足は屋敷の正門前を離れ、屋敷にほぼ隣接する煉瓦仕立ての壁に覆われた区画へと向かっていた。
以前アウザー自身の口から耳にしていたアウザー私設の『薔薇園』の区画へ―――――――――
“私設”とは言っても、その区画の敷地と薔薇の栽培規模を見れば、豪商の名に相応しいものと伝え聞いている。
運営や薔薇の世話はアウザー家が行っているものの、
市民に一般開放され無料で薔薇を楽しむことが可能になっているという。
薔薇、特に“青い薔薇”を育てることを趣味としているセリスには、以前から見に行きたいと思っていた場所に図らずも足を運ぶ機会だと捉え直していた。
これがアウザーとの“逢瀬”を終えた後だったならば、ここまで足を運ぼうと思えたか疑問だし、仮に同伴でとなった場合は周囲の余計な視線や自分のペースで回れないことへのストレスを感じることになったかもしれない。
(そう考えてみると、かえって1人の方が良かったかな・・・・)
心の中にわだかまっていたモヤモヤを振り払うかのように、セリスは心の中で自問自答し前を向いた。
(この香りは・・・・・・)
アウザー邸から視呼の間に見えていた煉瓦区画内に入る入り口のゲートが眼前に近づいてきた時、セリスは自分の鼻腔を擽る甘い香りに一瞬足を止めた。
無論セリスにとっては初めての香りではなく、かぎ慣れた物ではあったのだが。
(こんな離れた・・・・壁の外まで漂ってくるなんて)
それは紛れもない“薔薇の香り”。
だがセリスが経験してきた香りよりも濃密なものだということは間違いない。
再び歩みを再開しゲートをくぐろうとする時まで辺りに漂う香りを肺に吸い込みながら、セリスは薔薇園に植えられた薔薇の規模とその育て方についてイメージを膨らませていた。