Perfume-2
それは非公式とはいえ、今回セリスにはしっかりと“侍従や侍女”が同伴していたこと。
無論素性を知られないように、公式行事よりも遥かに少ない供回りではある。
ただこれまで自身の技量を便りに、息抜きを兼ねた単独のお忍びを楽しんできたセリスにしてみれば、まさに“お目付け役”ともいえる供の存在は正直ありがたくはない。
だがこれは夫エドガーがセリスの単独行動と引き換えに課してきた“条件”であり、不本意ではあっても受け入れるしかないのだ。
セリスは今まで自身の気ままな行動のお陰で、様々な“男女の出逢い”を経験することで、“背徳の味”を知り女性としての“深み”を増してきた(と彼女自身も自覚している)。
だからこそ、今回のエドガーが命じてきた処置も妻の変化に気づいた夫による疑いの現れではないかと勘ぐってしまったくらいだ。
無論面と向かっての問いかけや詰問を受けたわけではない。
だからこそ逆に精神的な束縛になり得るものなのだが。
(まさか、ね・・・・・・)
こうして一抹の不安は残るものの、結局セリスは夫の条件を受け入れ、ジドールに足を踏み入れたのだった。
一連の行事が終わった後、セリスの脳裏に最初に浮かんだのは、ジドールでも名の知れた富豪アウザー2世の顔だった。
エドガーの学友でもあり、先代とは似ても似つかぬ鍛えられた肉体を持つアウザーは、セリスにとっては自身の肖像画に関わる形で2度にわたり身体を重ねた仲でもあった。
無論アウザーには今回のジドール来訪は知らせてはいない。
だが折角遠路ジドールまで足を運んだのならば、たとえ短い“逢瀬”でもと半分期待という駄目で元々程度の淡い期待は持っていた。
(万が一いなかった時は、街をぶらついて時間を潰してもいいわけだし・ ・・・)
セリスの脳裏を、自身がアウザーに衣服を脱がされ互いに手足を絡ませ合う情景がよぎる。
当然お目付け役である侍従達からは反対の大合唱であったものの、夜になるまでには戻るし、街の外には決して出ない等王妃の側から家臣への説得を行い、
合わせて自身の行動を監視させるような陰供は絶対つけないように言い含めた。
そんなこんなの経緯を経て、セリスはいつものお忍び用の軽装――――――青いチューブトップに黄色い生地で編まれたパンツルック風の戦闘服に革のブーツ、護身用のレイピア―――――に衣替えすると、宿泊先のホテルから街の中心部に向かっていった。
目立たないようにと化粧や装飾は必要最小限というのはいつものことなのだが、
彼女の颯爽とした立ち振舞いや風にたなびくウェーブがかった金髪はどうしてもすれ違う人の目に止まるというのも毎度いつもの通りである。
その日ジドールの空は雲1つなく真っ青に晴れ渡り、格好の外出日和だった。
陽射しもそれほど強くなく、肌に感じる外気もセリスにとっては程よい暖かさといったところで、自然と気持ちも浮わついたものになっていた。
それでも万が一の陰供にも気を配りながら、セリスは何度か来たことのある大路小路をするすると抜けていき、
偶然を装う形で目指していたアウザー邸の前に到着し、そこで館の主人の不在を知らされ、今に至るのである――――――