第一章-8
「よし、到着だ!」
「早く行こー!」
駅から10分程歩いたところに大きな看板があり、そこにはパンダの絵が大きく描かれていた。
「ここかー!楽しみだな!」
「うん!」
「はいっ!」
「はいはい……」
俺達は入場ゲートを潜り、園内に入る。
「おおー!!︎」
俺は思わず声を上げる。
「すげぇ……めっちゃ広いな……!」
「はーい!俺はアニキと一緒に見て回ります!」
「は!?︎なんでそうなるんだよ!」
「だって、アニキと離れたくないんだもん!」
雅也がガシッと俺の腕を掴む。
ヒカリちゃんとアカリちゃんもまさかここまで雅也のブラコンが重病だとは思ってなかったらしく呆気に取られている。
「い、いやいやいやいや!!︎お前は年の近いアカリちゃんと回わるの!俺はヒカリちゃんと回るから!」
雅也が何か言いかけようとしたが雅也の口を塞ぎ雅也に耳打ちする。
「帰ったらお前の言うこと何でもきくから…」
すると雅也は顔を真っ赤にして黙り込む。
(こいつ…顔赤くして俺に何させる気だよ…)
「わ、分かったよ……」
「おう、頼んだぜ?」
「任せとけ!ただし俺の目の届く範囲にいる事!アニキもヒカリ先輩もいいですね?」
「あ、ああ……」
「わ、わかりました。」
俺とヒカリちゃんは渋々了承し、アカリちんと雅也は2人で歩き出した。
「さて、俺たちも行くか!」
「うん!」
雅也は本来ブラコンの病気さえなければ明るくて友達を楽しく笑わせるムードメーカー的な奴だ。
気持ちを切り替えるとしっかりアカリちゃんをエスコートして、アカリちゃんは楽しそうに笑っている。
(ふう…一時はどうなるかと思ったけど……これでひと安心かな?)
俺はさりげなくヒカリちゃんの手を引いてゆっくりと歩く。
ヒカリちゃんは一瞬ビクッとしたがすぐに笑顔になり、手を握り返してきた。
ピィィィッピィィィッ
雅也がどこから持ってきたのかホイッスルを鳴らしながら俺達のところに猛ダッシュでやってきた!
「教育的指導!教育的指導!教育的指導!!」
雅也が鬼の形相で叫ぶ。
「うっさい!お前は何歳児だ!」
「え?14歳ですけども?」
「お前は小学生かよ!ってか、お前ちゃんとアカリちゃんの事見ろよ!アカリちゃんが困った顔してるぞ?」
「アニキ達が手を繋ぐなんてハレンチな事をしているからだ!」
雅也の言葉を聞いてヒカリちゃんは顔を真っ赤にしながら俯く。
「別にお前には関係ないじゃん!」
「関係あるね!俺の兄貴なんだから!」
「はいはい……」
「とにかく!もうちょっと離れて歩いて下さいよ?ヒカリ先輩もいいですね?」
「はい……。」
「ほら、ヒカリちゃんもこう言ってる事だし、もういいだろ?」
「むぅ……分かりましたよ……」
雅也は不機嫌なままアカリちゃんの元に戻っていった。
「ははっ…翔太君の弟君…思った以上に重症だねぇ……」
「まぁ、あいつは昔から俺の事が大好きだからな……」
「アカリにはかわいそうだけど…雅也君の事諦めるように言った方がいいかな……」
「うーん…ごめんね。ヒカリちゃん……。」
「ううん…大丈夫。それに私も翔太君の事気になってたけど、弟君には勝てる気がしないな…」
「え…気になってたって…つまりそれは…」
「もういいの…だから気にしないで。それより、早く行こう!」
「お、おお……そうだな。」
(嗚呼、弟よ……お前のせいで俺はまた魚を逃がしてしまったぞ……うう…)