止められぬ欲望-3
直ぐに吉田はその中学校をLINEで鈴木に伝えた。
それだけで今は事は足りている。
あの美少女の行き先には、百戦錬磨の鈴木達が待ち構えている。
焦ることなくこの美少女の後をつけ、逐一報告すれば良いだけ。
佐々木と吉田は付かず離れずの距離を保ち、そして同じ駅に下りて行動を監視する。
『いま駅に着きました……一人で歩いて……?』
吉田が鈴木に通話をした直後、その美少女は待合室の椅子に座っている一人の女性の傍に駆け寄った。
スラリとしたその女性はデニムショートパンツにピンク色のロゴプリントTシャツという爽やかな服装をしていた。
年齢は二十歳を過ぎたくらいといったところか?
明るめなブラウンの髪は肩甲骨を覆うほど長く、クリッとした瞳はあの美少女のものと良く似ていた。
『姉妹……かな?』
『揃って歩き出したぞ。先ずは報告だ』
その女性は手も脚も長く、まるでモデルかレースクイーンのよう。
やや濃いめな眉はよく動き、大きめな口もよく喋る。
美形ながら愛嬌のあるその女性は、おそらく他の仲間達が見ていたら、満場一致でターゲットに選ぶであろう逸材であった。
{後ろ姿でもイイから写真送れ。もしソイツも一緒だったら纏めて狩ってやるよ}
さすがの頼もしさだ。
吉田は気づかれぬよう写真を撮ると、その画像を送った。
街中でも目立つ白いセーラー服と、美脚をひけらかして歩くモデル体型の二人ならば、なにも正面からでなくても識別できる。
『クククッ!後ろからだと100点じゃねえか。さて、肝心の顔はどうかなあ?』
駅から真っ直ぐに伸びる大通りの、そこから碁盤の目のように広がる脇道の一角で鈴木達は待ち構えていた。
箱バンにはマグネット板で作った架空の工務店の名前を貼り、全員が薄緑色の作業着を着ている。
そして軽自動車と箱バンをピッタリとつけた縦列駐車が、鈴木の考えた《罠》だった。
ここの道は幅が狭いからか人通りも少なく、行き交う車も殆ど無かった。
更に都合の良いことに、止めた箱バンの左側は高いブロック塀になっており、そこは周囲から死角となる。
鈴木は用意周到に、左側のスライドドアを大きく開けて待った。
『ホントにここを通るんですか……?』
高橋の疑問は直ぐに消えた。
ぺちゃくちゃと賑やかに喋りまくる女性の声が近づいてきたと思ったら、あのターゲットの二人が十字路の曲がり角からいきなり姿を現したのだ。
「でさ、スコティッシュ・フォールドって猫ちゃんがメチャクチャ可愛くてえ」
「見たい見たい!今度一緒に連れていってくださいよ」
危険極まりない十四個の眼に二人は気づかない……相変わらず他愛もない会話をし続けながら箱バンの横を過ぎ、軽自動車との間に差し掛かる……。
『そこ気をつけて!危ないから』
鈴木は道路の反対側を指差しながら二人に声を掛けた。
何かの作業でもしていたのかと二人は揃って反対側を向き、視界からその危険な隙間≠外した……。
「んも"ッッッッ!?」
「ぶぷぷッ!」
伊藤が小さな美少女の口を塞ぎながら抱きしめ、鈴木と田中がモデル体型の女性を羽交い締めにして電撃を喰らわせた。
周囲からの完全な死角の中で、佐藤と高橋が二人に対してスタンガンでの追撃を繰り返し、そしてスライドドアが閉まる音と共に、街から彼女らの姿は消えた。