魔女車掌サリーナの狂乱-4
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ものの数分で帰ってきたサリーナは目をギラつかせて狂気の笑みを浮かべていた。
ナチ風のSM女王コスチュームの腰には、凶悪に黒光りするペニスバンドがそそり立っていた。
そこでようやくロシアンパパは戦慄を覚えた。
「パパ、いいことしてあげるね。私たちは親子だし、死んだママにも悪いから、こんなやり方でゴメンだけど」
サリーナは兎を引き裂き殺す直前の野獣のように穏やかな目をしていた。その青い双眸はKGBの拷問プロフェッショナルの女のような冷徹な狂気、そして至誠の純情に濡れ光っている。
(こ、この娘は! とんでもない怪物に育ってしまった!)
ロシアンパパとて素人ではない。なまじっか元プロであるだけに、サリーナのサディズム精神のメンタリティレベルの高さが即座に看取された。
しかも幽遠な女性の嗜虐性欲趣味に特有の色気と淫情が絶妙に混ざりあい、なまじっか優しげであることや愛情を滲ませているのがかえって空恐ろしい。さらに一番恐ろしいのは、それが実の娘であることだ。
元敏腕のロシアン諜報員も驚愕と絶望で思考がフリーズする。
けれどもサリーナは止まらない。彼女の歪んだ愛は誰にも止められない。
「パパぁ、だいしゅきっ! 天国のママに、最高にイイ顔を見せてあげてね!」
「おい、やめろ! よすんだ、サリーナっ! や、ヤメロオオォォォ! アーッ!」
ここは人道的理由から詳述を避け、結論と要点だけ簡潔に述べておこう。
ロシアンパパは愛娘のサリーナから亡妻の遺影の前で、鎖で吊るされたまま、ペニスバンドでバックスタイルで犯された。
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そしてパパは若かりし日に受けた耐拷問訓練のことや、かつて(建前は味方の共産国圏への潜入任務で)敵から受けた拷問で。金玉に電気を流されてハデス(地獄)の門を垣間見たときのことを考えていた。
あれよりは、こっち(錯乱した愛娘の暴虐)の方がまだマシかもしれなかった。祖国ロシアでの秘密警察の上司からの「査問」の恐怖や、同志たちからの「総括」の暴力性に比べれば、このくらいのハプニングは生優しい児戯に等しい。しかも被害者が男性の場合には性的価値があまりないため、痛めつける側の全てのエネルギーがよりストレートな暴力になりがちである(性的虐待とどちらがマシかは不明だが)。
ロシアのラーゲリ(監獄)精神の極北には「春」があった。それが如何に屈辱的なものでも、しょせんは「お遊び」でしかなかった。しょせん加害者は愛娘だし、シベリアン監獄主義の厳寒を知る者には日本の(人生の)冬など小春日和でしかない。
押し迫って抱きつきのしかかられた、今は人生に疲れ果てた男の背中で、豊かに育った一対のマラコー(乳)が弾みながら触れてくるのは望外の喜びだ。あんなに小さかった娘がこんなに大きく育ってくれて、パパとしては幸福な心持ちにもなる。
(こんなに体もお乳も素敵に育って、父さんは嬉しいぞ!)
サリーナは狂った激しい表情で果敢に挑んでくる。止めても無駄だった。
「パパ。パパ。パぁパぁ! あー、あー、あー」
優しく耳元で囁かれる甘え声はハイレベルな純情と狂気を孕んでいる。
しかし真の熟練者()のパパからすれば「しょせんは素人だな」「これも可愛い娘のヒステリーだな」の感想しかない。
もしもこれが本当の「プロの世界の拷問」ならば、玩具じみたゴムの擬似ペニスなんかでなく金属の電極棒だろうし、同時に頭を水槽に漬けて窒息させるくらいはやっただろう。きっと殴る蹴るされて既に五体無事でなく、過酷な牢獄の飢えと乾きに手足や身体も虐待で痛めつけられてボロボロだったろう。
過去に捕獲されたアフガンでイスラム教徒過激派から訊問されながらナイフで胸や腹を浅く切られたことや(一緒に潜入したロシア人同志の何人かは新人テロリストの練習用に切り刻まれて死んでしまった)、足の脛を鉄の棒でコンコン叩かれ続けて歩行に若干の後遺症まで残ったことに比べたら(家族に「昔に交通事故に遭って」と説明していたのは、ありゃあ嘘だ)、まだ拷問としてはかなり生易しい冗談でしかない。
それでも気が緩んでいたのは事実で「感覚を忘却して内面に逃避する精神防御」を忘れていた。
ついには愛娘に擬似ペニスで掘られながら勃起したペニスを、小悪魔のような手でしごかれ、僅か五秒で果てた。パパは我ながら愕然としてしまう。
ラリッた笑顔で背後から迫っていたサリーナも擬似射精して腰を攣らせていた。
ロシアンパパの目の前で亡妻の遺影が諦めの笑顔と赦しの目を投げかけてくれる。
(うーむ。これが「罪と罰」なのか)
仕上げに諦めと幸福の中で、泣き笑う狂った愛娘の神聖なアンモニア水鉄砲を顔に浴びて、最後には口をあけて自ら飲んだ。
なにしろメチルアルコールを混ぜたロシア地下経済の最低廉価品の密造代用ビールに比べたら、どれだけマシかわからない。顔の上で遠慮もなく撒き散らされる愛娘の温かい小便は、まるでスポーツ大会の勝利や祝い事のビールかけのように感じられて、ロシアンパパはつい笑ってしまう。
そんな異様な尋常ではないやり方でしか、伝えられない「大ロシア式のシベリア超特急的な愛」があった。