地下鉄で愛しい幽霊と情交した少年(後編)-6
9
リクは無理に責めずに一呼吸置いた。
無理矢理するとかえって不快になるかもしれなかったし、まだまだ途中でしかないのだから、ヘタらせる気もなかった。まだ限界までの時間と余裕が許す限り、最大までアヤを可愛がってやるつもりだったのだ。
「続けるよ」
小声で伝えると、アヤは姿勢を直して座席に捕まり直す。ちゃんと受け止めるために、彼女なりに気を配ったらしい。
ゆっくりと律動を再開すると、鈍感と鋭敏の入り混じった姫筒と、全身の反応で応えてくる。自分から臀部の華奢な肉弾を合わせるようにぶつけてくるのだ。
「あっ、あっ、あっ」
啼く声が裏返って、そのころには膝下にまで恥蜜が滴り流れている。
床の上にもポタポタと雫が垂れていた。
「バカになりそ」
アヤの表情はウットリとして、法悦にたゆたっているかのようだった。儚いような美しい表情で振り返って「お兄ちゃん、お願い」と言う。
これまで奇跡的に暴発を堪え免れていたリクは、猛然とピストンを開始した。
「ハッ、はあ、はあア! アアッ!」
乱れるアヤは自分を抑え切れなくなってきたようだった。昔も最後には態度がだんだんに、あられもなくなってしまう。リクは懐かしい愛情が蘇って満ちてきて、単なる快感を超えた幸福を感じだ。
「あ、来る! 来ちゃう!」
わざわざ口に出す辺り、本格的な大波を予感したらしい。
衝動に駆られ、バスンバスンと渾身のピストンで煽り追い込んでいく。アヤもまた、自分から腰を振って快楽を貪りながら、涙目で喘いでいる。
「イく、イクから! ひ、ぐっ! んんんっ!」
歯を食いしばってアクメを迎えた牝壷に、リクは背後から抱きしめながらありったけの精液を脈打たせていた。男性器の震央からの律動がアヤの子宮に流れ込んでいく。とっくに熱く痙攣していた膣道が縋りつくように締めつけてきていた。
二度目だというのに興奮の摩擦で液量を増していたのか、いっこうに噴出が止む気配もない。ほんの数泊とはいえ、一・二回でおわるよりも長く、しかも時間が緩やかになったような錯覚さえ覚えてしまう。
(出てるの? お兄ちゃんが、私のナカで精子出してる?)
アヤも感づいて硬直していた。腰をグラインドする動きを止めて腰を押し付けるリクの動作で、彼女もそれと気づいたらしく、その刹那にチラと横目で振り返りながら「ウッ」と呟き、直後には身体で感じ取ったようだった。
「出たの?」
アヤの首筋と顔が急に真っ赤にまで染まる。荒く深い呼吸も達成の証を告げていた。
しばし余韻を楽しんでから引き抜くと、その引き擦り出される摩擦だけでも、アヤは「んっ」と背中を振るわせた。アヤはまるで全ての力が抜けたかのようで、少しばかり朦朧と上の空になっているようだった。
そこは「お兄ちゃん」がお世話してやるべきだった。
座席に倒れこんだお尻と陰部を、今度はリクが昔のように丁寧に舐めてやる。彼女へのケアが最優先だから、汚れていても構う気になれない。舐めとった垂れた精液はさっきのアヤのハンカチに吐き出したけれど。
敏感になった陰門全体をマッサージしていると、僅かな小水まで口の中に漏らしてくる。
迷わずリクはゴクリと喉を鳴らした。
(ヤダ、お兄ちゃんにオシッコ飲ませちゃった!)
そうこうする間にも慰めるような愛撫は続いていて、細かなオーガズムが泡のように弾ける。おかげでアヤはとうとう泣いてしまった。
「もっ、恥ずかしいよぉ。イヤぁ」
赤面して照れながらも逃げようとしない彼女は、リクの覚えているのと同じだった。アヤはときどき、兄にそういう「お世話」をして貰うのが好きだったのだから。
「アヤはホント、甘えんぼだな」
伸ばした舌先であられもなく熱し濡れた恥部をくすぐり、ピンクの会陰の淫溝をなぞるリクの目の前で、アヤの不浄の菊の花が悩ましく打ち震えていた。
10
睦事を終えた後、並んで腰掛けた座席でアヤは肩をピッタリくっつけてもたれかかった。
身を乗り出して抱きしめられながら、異母兄の胸に甘えて囁き告白する。
(ほんとはさ、一緒に大学に通いたかったんだ)
(うん)
二人はまどろんで、目が覚めたリクは地下鉄の駅のベンチで一人だった。だがたとえ一度の奇跡とかでも、願い事が叶って良かったのかなと思った。
(アヤは、別の世界でちゃんと生きているんだ!)
果たしてそれが慰めになるのかどうかはわからないし、自分の世界のアヤが花の命を中途に失ったことに変わりはないのかもしれない。けれども並行する世界で無数の彼女がいるのならば、一つの大きな存在としての彼女は消えたわけではないと思いたい。たまたまにこの世界で姿を消しただけで、無数のアヤはまだ生きていて、幸せにもなれるのだ。
たとえリクの目の前に現れず、他所の男に取られるのだとしても、それでもいい。
ただ、愛しい異母妹が幸せでいてくれさえすれば。
けれども切なさだけはどうしようもなく、リクは地下鉄にいるときについ目で探してしまう癖がついてしまった。無駄と分かっていても、どうしようもなく、考えるほどに謎と妄執は深まるばかりで、彼はあれ以来、地下鉄で急に勃起してきて困ることがしょっちゅうになってしまった。
(「メトロ・メランコリア」完)