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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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幽霊の義妹はご機嫌斜め(後日談)-1

1
 ある日、地下鉄に乗り込んだら、運転手が「大きなコアラさん」だった。
 けれども三沢サエ(23)は必ずしも動じることはなかったのである。
 なぜならば、過去に似たような経験をしていたからだ。
 一度はメトロ異空間の暗黒世界で、今の恋人のリクの「異世界時間線での未来の息子」の玲君に危うい窮地を救われている(ファーストキスのお相手)。それに別の機会にパラレルワールドに迷い込んだ際には、その世界でリクの異母妹のアヤと会ってきたこともあるからだ(その世界のサエとは義理の姉妹のように仲良くやっているのだとか)。


2
 客席はガラガラだったけれども、知っている人影が一つ。

(あ、やっぱり! アヤちゃんだ!)

 三沢サエはさほど怖れたり警戒することもなく、足早に近寄っていく。

「アヤちゃん!」

 透けるような肌の人形のように美しい義妹。
 再び会うことが出来ただけでも、嬉しくなってくる。
 すると前髪を切り揃えた、あの時と変わらない姿の少女が顔を上げ、ツンとして言った。

「はじめまして、三沢サエさん」

 少しばかり様子が変な気がした。
 以前に会ったアヤとは、ちょっと態度や雰囲気が違う。あのときには随分と親密な仲にまでなったはずなのだが、なんだか今日は少し他人行儀なようで。
 立ち上がった可憐な少女はペコリとお辞儀する。

「兄がお世話になっています」

「いえいえ、こちらこそ」

 つられてサエも頭を下げつつ、それでもいささかの当惑は否めない。
 するとアヤは困惑を察して裏事情を明かす。

「ああ、サエさんは「別の世界の私」とは、もう会ってたんでしたっけ?」

「え? あ、うん?」

「私は、サエさんのいる世界のアヤです。幽霊で、このメトロの水母宮殿駅に所属してます」

 それでようやくサエは事情が飲み込めた。
 このアヤは、彼女とリクがいる世界の、夭折したアヤなのだ。
 麗しい少女の細く美しい手指が伸びて、サエの片頬をムニュッと掴む。

「ふぇっ?」

「お兄ちゃんを奪われた恨み!」

 天使のように微笑むアヤは、ニッコリしたまま、サエの頬を引っ張る。
 思い起こせば彼女は、異母兄のリクへのブラコンを通り越して、ほとんど近親相姦の関係だった。
 パラレルワールドの別のアヤは、この摩訶不思議なメトロでリクと情交して、その子供(玲)を孕んでいる。過去に会ったことがあるそちらのもう一人のアヤは、その世界のサエとは(既に慣れ親しんで)義姉妹として仲が良かったようだが、こちらのアヤはそうではないということなのか。

「でも」

 アヤは義理の姉の頬を摘んだ手を放した。

「玲君に免じて、許してあげます。私も何回か会ったんですよ」

 ポシェットから取り出したのは、まだ三歳くらいの幼児の写真。リクに良く似た面影には、見覚えがあった。
 サエは薄々に勘づきながら言った。

「これって?」

「玲君です」

 ニンマリするアヤは幸せそう。ほとんど法悦の表情さえ浮かべている。
 彼女からすれば、自分の元いた時間線世界の兄が、パラレルワールドの自分に生ませた子供なのだ。直接に産んだわけではないとはいえ、遺伝的にも存在的にも完全に自分の子供だし、叶わずも望んだ願望の実現した結晶でもある。

「あの子(玲)って、生まれた事情が特殊でしょ? パラレルワールドを跨いで交わって生まれた子だから、小さいときとか、たまにメトロ異空間の世界に迷い込んでくるんです。
 そんなときは、わたしがちゃんと優しく保護して、元の世界に帰してあげて。お母さんが二人いたらきっと混乱するから、「私はお母さんのアヤの妹で、玲君の叔母さんだよ。私はここの地下鉄で働いてるけど、迷子の玲君はママのお家に帰ろうね」って言って」

「ほへー。そんなことがあったんだぁ」

 頷きながらもサエは頬が緩んでいる。
 なにしろサエからすれば「玲」はファーストキスの相手だし、その子供時代の可愛い写真を見てご満悦なのだろう。成長した未来の彼が、かつて彼女のメトロの暗黒世界での窮地を救った「白馬の王子」のようなものなのだ(平行世界では相互に、時間の同時性・整合性では揺らぎがあるため、そういう時間差現象も発生する)。

「もちろん元の世界に返す前に一緒に遊んで、それからついでに何回もチューしました。擦り切れるほど頬擦りしてチュッチュして嘗め回しました。
 だからあの子のファーストキスは、実はたぶん、私が頂きましたので。あっちの世界の私かサエさんがやっていない限りは。母親や叔母さんのキスやバレンタインチョコはノーカウントの説もありますけど」

 何故か暗にムキになったような調子でアヤは付け加えた。それは対抗意識なのか?

「ま、あっちの世界のサエさんにも、玲君はさんざん、「下の方まで」お世話になったみたいですし、拙い「息子」に免じて、許してあげるって事です。命までは」

 アヤの目がキラリと光った。
 なんだかほんの少しだけ、剣呑で不穏な気配がする。


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