母として、友として許す!-4
「うわっ、やだー。その自白って何回聞いても「うわー」っだわ。(アヤが過去に行ったパラレル世界の)あっちの世界の同じ年頃のサエさんって、すっごくウブな感じだったのにねー。ちょっと嫉妬しちゃうくらいだったけど、「この子だったらあっちの世界のお兄ちゃんを婿に任せてもいいかな」ってくらい。
話したでしょ、あのときサエさん(パラレルワールド旅行中)とちょうど入れ替わりで、(別世界のサエが)こっちの世界に来た事があるけど、あんまりピュア過ぎて可愛すぎて、ギャップで困っちゃったわ」
アヤはペロリと唇を舐める。サエとしても察せざるを得ない。
「で、餌食にして犯しちゃったんだったわね」
サエの突っ込みにアヤはキャハハと大笑いする。
「やーだなー、「餌食にして犯した」なんて人聞きの悪い。あくまで義理の妹としての愛で親身に花嫁支度の修行を手伝って、優しく優しく開発してあげただけよ」
ヒラヒラと愛撫するようなアヤの手振りを見るだけで、サエは肌と背筋がゾクリとしてしまう。この義妹は優しく優しく、そして桁違いに凶悪な猛獣なのだから。ろくに経験がなかったらしい、別世界の自分が思う様に翻弄されただろうことは疑いの余地がない。
だがアヤはアヤで、負けじとやり返すのだった。
「サエさんだってあのとき、未来の玲とお楽しみだったんでしょ?」
そのことを指摘されれば、サエとしてもアヤの所業を咎めるわけにはいかないだろう。
わかりやすく赤面するサエの様子を鑑賞しつつ、アヤは楽しそうに撫で肩を揺らして卑猥な歓談を続ける。
「たしかあの子(玲)、リクに対抗意識燃やして「すごく激しかった」とか?」
「そーなんだけどさ、二日目で皐月ちゃんがたまたまやって来て。あの時はあの子が誰かわからなかったんだけど、十日間くらい、追いつ追われつしながらハネムーンごっこして、最後に地下鉄で分かれた直後に電車の窓から、捕まった玲君がプラットフォームであの子に馬乗りされて鬼の形相で殴られてたっけ?」
前にも聞いたことのある告白談をアヤは笑いながら聞いている。
どうやらサエは、若かりし過去に地下鉄で同じ時間線の未来(つまり今現在の頃?)に行き、この世界の玲と何かしら男女の業に励んだことがあるのだそうだ。そしてその際に皐月とも遭遇して一悶着あったようである。
「ああ、あの「正体不明の女の子」って、やっぱり皐月ちゃんだったのね。なんとなくそんな気はしてたんだけど」
アヤはさも愉快そうだった。息子の玲を遠からず見舞う、修羅場の予感に微笑む。皐月はアヤの大学の先輩の娘で、玲とは幼馴染みでもある。
「でも、大丈夫よ。サエさんは私とも仲良しになってるでしょ? 「愛しながらの戦い」ってのは、そんなものなんだわ」
「同年代だったらそうかもしれないけど、皐月ちゃんにはちょっと悪いかも」
そうは言いつつ、サエとしては再度の春の欲情をもてあましている。
(あー、でも私もしばらく我慢できないかも)
そんな悩みには、意外な解決が転がり込むことになる。
彼女たちは過去の地下鉄ミラクル絡みでの事件の全貌を理解しておらず、半ばは夢のような出来事として記憶も多々曖昧で、細部までは流して忘却していたのだ。
あの不可思議な地下鉄のパスは、サエを再び愛欲の冒険へと招き入れるのだった。